名大SF研記録ブログ

名古屋大学SF・ミステリ・幻想小説研究会

はじめに

このブログでは、名古屋大学公認サークルである名古屋大学SF・ミステリ・幻想小説研究会(Twitter : @TaroSF) が活動報告やレビューを行っています。

活動内容

 名大SF研は、読書・映画好きが集まっているサークルです。週一で例会&本の内容について語り合う読書会をおこなっています。また、小説(時に漫画や映画なども含む)のレビューを部員が書き、それらをまとめて載せたPIT(イベントごとに発行)やBIT(不定期発行)という名の部誌を作っています。PITに関してはサークル内でテーマを決めて書き、コミケや名大祭、文学フリマなどで頒布を行っています。

名大生の方へ

 現在も会員募集中なので、SFに興味がある名大生の方は下記連絡先やTwitterにてご連絡お待ちしています。他大学の方もお待ちしています。

通販のご案内

 名大SF研では、過去のPITや、本サークルのOBである作家・殊能将之さんの名大SF研在籍当時の原稿をまとめた『Before mercy snow』などの通販を行っています。

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連絡先

 不明な点がございましたら、nagoya.u.sfa[at]gmail.comまでご連絡ください。

創作短編-バディもの(No.0)

 こんにちは、迷人です。

 皆さんは名大SF研の活動の一つ、創作短編読書会をご存じでしょうか?
 その名の通り、サークル員が書いたオリジナル短編小説を読み合う会です。これは部誌『PIT』の発行などに合わせて、年に数回行われます。このとき読む短編は『PIT』や『創作短編集』に収録され、サークル外に対して販売を行っております。

 執筆する小説のジャンルは自由! 文字数制限もなし! と、比較的自由な創作ができるのですが、一つだけ条件がございます。予め決められた三つのテーマに沿って創作しなくてはならないのです。ちょうど落語の三題噺のようなシステムですね。まあテーマについてのルールはありませんし、オチにテーマを使わなくてはならないわけではありませんが。
 要するに、与えられたテーマ=ノルマを作中で如何にして達成するかという挑戦でもあるわけです。
 これが想像以上に難しい! 噛み合わせが悪いテーマ同士だと中々苦労しますし、逆に噛み合わせが良すぎると他の人と被った王道ストーリーしか思いつかなくなってしまうものでして。私も何度かこの会に合わせて創作してきましたが、毎回テーマの回収に悩まされてばかりです。


 私の事情はさておき、そんな創作短編読書会が来週の月曜日(4/20)に開催されます。今回は新歓の一環という形ですので、非部員の方や新入生の方、誰でも参加可能です。例会の雰囲気やサークル員の創作事情を知りたい方には、うってつけのチャンスとなっております。

 そこで、今回は部外の方にも創作短編を読んでもらえるよう、このブログ上でサークル員の作品を公開します!
 公開作品は最新の部誌PIT vol.35『バディもの』に合わせて書かれたものです。既に発行されたPIT vol.35『バディもの』に収録中の二篇に加え、未出版の二篇をすべて限定公開します。
 四篇は「創作短編-バディもの(No.1~4)」という記事で読むことができます。一記事につき一作品を掲載中です。

 ちなみに今回のテーマは

バディもの・人外・死別

 となっております。

 一体どんな物語に仕上がっているのか。以下のリンクから作品をお楽しみください!


①『友情モラトリアム』 著:青波ナオ
msf.hatenadiary.jp

②『染まるは茜色』 著:十倉雜昏
msf.hatenadiary.jp

③『少女は大亀から飛び降りる』 著:makki
msf.hatenadiary.jp

④『Cher F, – Amicalement, F』 著:ジョリジョリ
msf.hatenadiary.jp

創作短編-バディもの(No.4)【限定公開】

Cher F, – Amicalement, F

ジョリジョリ


 一度情報を整理してみよう。そう意気込んで、リストは積み重なった紙の束に手を伸ばした。紙面に敷き詰められた文字列を目でなぞっていく。当然だが、見知った内容しか現れない。見慣れた自分の筆跡だけが延々と目に飛び込んでくる。
 ふと、冷たい空気が彼の手に触れた。ヴァイマールには辛く厳しい冬が訪れていた。雪こそ降っていないが、今日の気温は華氏40度*1を下回っているだろう。リストはちらりとマントルピースを一瞥し、苦笑した。どうやら書き損じをたんまりと食わせてやったのに、まだまだ炎は本調子を出せていないようだ。
 肩をすくめたあと、リストは作業に戻った。細かく目を通す必要はない。ただ全体の流れを確認すればよい。理解はしているものの、こうして彼の人生を、音楽をなぞっていると、思わず手を止めて思いを馳せてしまう。
 不思議なものだ。一年前に見た棺の中にいる彼の姿は、もやがかかったように思い出せない。しかし、原稿を読み直していくだけで、十数年前の顔が瞼の裏に浮かんでくるのだから。
 フレデリック・ショパン。彼は間違いなく稀代の音楽家だった。ショパンの死を知ったときに、すぐに追悼の念と賞賛を形にしなくてはならないと考えた。そうしてリストは、ショパンの伝記の執筆に着手した。
 熱意の赴くままに書き上げたそれは、つい先日完成したばかりだ。リストは心地よい達成感を覚えながら、新たな紙にタイトルを記そうとした。しかし、ペンをインク瓶につけたのはいいものの、そこからペンを持ち上げることは無かった。書くべき言葉が思いつかなかったのだ。
 シンプルに『フレデリック・ショパンの生涯』とするのが良いだろうか。しかし、それではなんだか味気なさを感じる。では『ショパン 繊細さと情熱を兼ね備えた革新的な音楽家』などとしようか。今度は冗長すぎる気がしてくる。
 こんな調子で唸ること三日間。未だに表紙は真っ白のままだった。これでは埒が明かない。そこで、一度全体をざっと見直すことで、タイトルのアイデアを得ようと思い至ったのだ。

*1:摂氏4.4度

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創作短編-バディもの(No.3)【限定公開】

少女は大亀から飛び降りる


 これまでのおさらいをしよう。
私、ザリアはガスを使った魔法の実験で村の図書館を燃やしかけた罪、ほかの村と魔法で通信して機密情報を漏らした罪、で追放されかけている。

 この村では三つ以上の罪を犯すと追放されてしまう。だから私はこれ以上罪を犯したら不味い、すごく不味い。そもそも村は体高1000mの大亀様の甲羅の上(亀上)にある。つまり追放とはすなわち死刑なのだ。甲羅の端から落とされて、魔法を使ってなんとか生きて大地に着地できたとしても、凶暴な魔獣や危険な感染症、気象現象で長くは生き延びられない。

 流石にしばらくは大人しくして、厄介ごとを作り出したり巻き込まれたりしないようにしないといけない。いろいろとやってしまった罰として、枝拾いのノルマを課されたり、夜警当番を増やされたり、寝床が子供たちと共用の寝床になったりと散々な目にあっているけど、ここが我慢のしどころだと思う。

 私にしては珍しく、二週間くらいは我慢して真面目にやっていたから幼馴染のハカセとイチゴなんて心配してお菓子を差し入れに来たぐらいだった。これでも食べて元気出せ、って言ってベリークッキーをくれたのだ。いいやつらだ。

 ところで、魔法っていうのは魔力をつかって自分の望むとおりに世界を変える力だ。だいたいなんでもできる。火をつけたり怪我を癒したり、様々な魔法がある。みんな魔法を生活に役立てているけど、私は無意識のうちに魔法を使ってしまうことがよくあった。人生に何か楽しいことが起こってくれ、と。

 表面上の理性的な反省の甲斐もなく、無意識に私はまた魔法でイベントを引き寄せてしまったらしい。ワクワクするような、新しい出会いを。

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創作短編-バディもの(No.2)【限定公開】

染まる先は茜色

十倉雜昏

(2026年1月18日発行のPIT vol.35「バディもの」 収録作品)


注意:この小説には、展開上必要な不適切表現、政治風刺、暴力描写が含まれます。ご注意の上ご覧ください。

(とある人物の述懐がAIに記録されている。おそらく、学習のために読み込ませていたのだろう)
 カーテンを閉め切った部屋を、スクリーンの光が照らす。カタカタとキーボードを打つ音と、CPUのファンの回転音が静かな部屋に響いている。近隣住民が寝静まる中、防音性能の高い部屋で、僕はデスクトップに文字列を打ち込んでいた。ひと昔ならネット廃人のニートの生活と思われていただろう。しかし、こうすることによって、僕は生きていくのだ。そう、僕自身が調教したAI、「RUNA」とともに。RUNAは、もともと某大手IT企業が作ったオープンAIだ。僕は少しばかりプログラミングの素養があった。僕が生きていく上で都合がいい真実、都合のいい情報を学習させ、少しばかりリプログラミングすることによって、僕の仕事上の「バディ」となった。僕がインフルエンサーとして生きていく上で、RUNAはなくてはならない存在になったんだ。

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創作短編-バディもの(No.1)【限定公開】

友情モラトリアム

青波ナオ

(2026年1月18日発行のPIT vol.35「バディもの」 収録作品)



「俺ごと撃ってくれ!」
 ゲル状の異星人に身体中を刺され。血を流しながら相棒が叫ぶ。
「このまま落ちれば俺もお前も死ぬ! こいつだけが生き残る! それが一番まずいだろ」
 分かってる……。
「覚悟はできてるんだ、この仕事に就いた時点で。俺一人の犠牲で、何人助かる? 犯人を野放しにできるか? お前だって分かっているはずだろ? それが俺たちの仕事なんだ」
 船が大きく揺れた。窓の外には巨大な、青い惑星が見える。船は燃える、人間も燃える。スライムだけが耐えられる。狡猾なことを考えたものだ。相棒が硬化剤でなんとか取り押さえているうちに、対スライム用の分解剤を撃ち込まねば、二人とも死に、この殺し屋だけが生き延びる。最善の策は目に見えている。手元には銃がある。視線を前に向けると、相棒がスライムと絡み合っている。もはや人間とスライムの境目も分からない。対スライム用の弾丸だ、近くに人間が居れば無事ではいられないだろう。
 宇宙船が警告音を発した。窓から火が見える。俺は、引き金を引いた。

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『鋼の錬金術師』キンブリー考察

はじめまして。からまきじ(もんちっち)です。SF研では、部誌「PIT」の表紙絵などを担当していました。

今回は、部長から許可をいただき、私がnoteに書き連ねた『鋼の錬金術師』のキンブリーについての考察記事を紹介させていただきます。

note.com

だいぶ前にX(Twitter)で「夢女子は自分にだけ優しい殺人鬼が好き」といった内容のポストがバズっているのを見かけたんですが、え~~どう考えても「誰にも優しくない殺人鬼」の方が良いに決まってるだろ!ということでキンブリーでした。
正直、内容自体は凡庸極まりないですが、「キンブリーは正論かましてる」説の悪口なんてなんぼあってもいいですからね。長々とした文章ではありますが、お読みいただけたら嬉しいです!

クリストファー・プリースト『不死の島へ』の感想

こんにちは、ノボルです。

献本

 先日、東京創元社さんから献本を3冊頂きました。

クリストファー・プリースト、古沢嘉通(訳) 『不死の島へ』


雨井湖音 『僕たちの青春と君だけが見た謎』


小鷹信光 『探偵物語』


この場を借りて。お礼申し上げます。ありがとうございます。




『不死の島へ』の感想

 このうち、『不死の島へ』を読んだので、その感想を書いていきたいと思います。

あらすじ

 1976年、春。ピーター・シンクレアは、予期せぬ不幸が連続し、ロンドンを去ることになった。路頭に迷っていたところ、幸運にも知人に別荘の管理を依頼され、そこに住み込むようになる。
 そこでピーターは、自分自身に向き合うため、自分の伝記を執筆し始めた。「完全な真実には、完全な偽りが必要」という思いから、次第に物語は現実とは離れたものになっていく。ついには〈夢幻諸島〉という架空の世界を生み出し、その世界は現実までも侵食するようになった...

感想

 何とも不思議な幻想小説だった。
 ピーターは、「完全な真実には、完全な偽りが必要」ということで、自身の自伝に〈夢幻諸島〉という架空の世界を作り出す。〈夢幻諸島〉において、「ロンドン」は「ジェスラ」に、別れた恋人の「グラシア」は「セリ」というふうに変えられる。
 途中までは、「現実のピーターが想像した、架空の〈夢幻諸島〉世界」という枠に収まっているが、次第にそれは壊れていく。ついには、その関係は逆転し「現実の〈夢幻諸島〉世界のピーターが想像した、架空の現実世界」と、立場が入れ替わる。そして、その関係までも固定化されたものではなく、互いに交換可能な極めて不安定な世界として、両者が共存することとなる。
 また、ロンドンは雨が降るような寒い街だが、〈夢幻諸島〉は暖かく温暖な世界となっている。2つの世界の気候の違いも、対比を際立たせているといえるだろう。
 「作中作」という関係だと、森見登美彦『熱帯』を思い出した。あちらは、幾重にも「作中作」が続き、最終的には円をなすようになった。しかし、今作は現実と〈夢幻諸島〉がパラレルとして進んだ。
 翻訳小説らしい語りもよかった。内省的な語りが多く、読むのには体力が必要かもしれないが、その語りが〈夢幻諸島〉という不安定な世界を、より一層引き立てているとも言えるだろう。
 作中に登場する「不死治療」も、何かのメタファーとして考察の余地があるかもしれない。
 久しぶりに、こういう硬派なSF?小説を読んで、面白かった。
 

ありがとうございました

本屋大賞ノミネート作品 半分読んでみた(ネタバレなし版)

 はじめまして、迷人です。

 最近OBの肇さんに2025年ベスト小説のブログを寄稿していただきました。大変興味深く読んでおります。残念ながら昨年私が読んだ冊数は肇さんには遠く及ばない量でして、自分なりのランキングは出せなさそうです……。しかし、そんな私にもかけそうな記事のネタがありました。
 

そう、本屋大賞です!

 近年、全国の書店では本屋大賞熱が高まってきているように感じます。あくまで私の体感になりますが、以前は大賞作品のみが取り上げられていたイメージでした。しかし、ここ数年はノミネート作品の発表から対象の発表まで一か月半近くたいていの本屋で特設ブースが設けられ、ノミネート作品すべてを推していこうという熱い意志を感じます。
 そこで今回は2026年本屋大賞ノミネート作品から私の読んだ5冊をレビューし、内容の感想やどれが大賞をとりそうかの予想を述べていこうと思います。本当はすべての作品を読んでから書くつもりでしたが、あと半月で残りの5冊を読める気がしなかったので半分だけのレビューとなります。(お恥ずかしながら、私の家には本屋大賞以外にも積読たちが列をなして待っているので)。

評価基準

 この記事では以下の4つの観点から作品をレビューしていきます。各項目は5段階評価です。

①完成度の高さ
②読みやすさ(一般読者向けか※)
③エンタメ性の高さ
④展開の意外性
⑤個人的好き度

※ミステリ好きである私の選書はかなりミステリ作品に寄っているので、ミステリ慣れしていない人でも読みやすいかという観点で②の評価を行っています。

レビュー

 それでは早速作品の紹介に移りましょう。掲載順は私が読んだ順番となっております。ちなみにこの記事では内容の核心に迫る部分には触れないので、未読の方も安心してお読みください。

イン・ザ・メガチャーチ(朝井リョウ)

(2025/09/05 日本経済新聞出版より発売) 
Amazon.co.jp: イン・ザ・メガチャーチ (日本経済新聞出版) 電子書籍: 朝井リョウ: Kindleストア

特設サイト:info.nikkeibp.co.jp


①完成度 ★★★★★★
②可読性 ★★★★☆
③エンタ ★★★☆☆
④意外性 ★★★★☆
⑤好き度 ★★★★★

ひとこと:全てのオタクの心を突き刺す恐ろしい作品。登場人物の生々しさが心に残り、読後感は最悪である。でも面白い。

 昨年の『生殖期』に引き続き、2年連続で朝井リョウの長編作品がノミネート。昨年は同氏の作家デビュー15年目。その周年記念作品である本書は、発売前からかなり熱を入れた販促キャンペーンが展開されていました。書影公開や特設サイトのオープン日時が予め告知されていたほどです。発売後も多くの書店で大量に平積みされていましたね。それでもすぐに無くなってしまう人気っぷりは天晴でした。最近の帯によると発売半年で20万部ほど売れたらしいです。我が名古屋大学の生協本屋でも、昨年最も売れた文芸書となっております。

 では実際の内容はどうであったか。結論から言いますと、文句なしの傑作だと思います。前作『生殖期』は面白かったですが、主人公の設定と物語として平坦なつくりになっていた点には不満が残りました。今作にはそれがない。むしろ完成度の高さに若干の恐怖を感じたほどです。比喩の使い方の巧みさや興味を惹かせ続ける展開の作りこみ具合などは、私がこれまで読んできた作品の中でもトップクラスの出来でしたね。五段階で評価するつもりでしたが、これだけ完成度を星6とさせていただきます。
 本作では現代日本の「推し活」や「ファンダム」の話が多く登場します。そのため馴染み無い人には読みづらい点がありそうです。ですが流石ベテラン作家。文章の可読性はかなり高いです。また、ある程度展開は読めるものの、男主人公とその娘の末路などは予想外でかなり衝撃的でしたね。読書中は主人公たちに共感してとても苦しいですが、読むことができてよかったと思える作品でした。ただ二度と読みたくはないです。これは誉め言葉ですので悪しからず。


さよならジャバウォック(伊坂幸太郎)

(2025/10/22 双葉社より発売)
https://www.amazon.co.jp/%E3%81%95%E3%82%88%E3%81%AA%E3%82%89%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%83%90%E3%82%A6%E3%82%A9%E3%83%83%E3%82%AF-%E4%BC%8A%E5%9D%82%E5%B9%B8%E5%A4%AA%E9%83%8E-ebook/dp/B0FWK2FQ9Z/ref=sr_1_1?crid=34E0ANABIZW8&dib=eyJ2IjoiMSJ9.YN6Y2r9lBU9NLVkN_ltJyCptfkd9NsCiJWeu2txt8BgxtJw7QltVw-nUd0782C4YxgCPsrb_IXkivoB5JTF8SeNIYVkTrJrGXr_RXGG78kCoyb8GkrYZH-42Ht7-KU_G7ixj_V-SJrZDzYNGU5kyv1URS-1yCwOgoSF4Az5RNoe4hncEUBGxSgg3cM6yoAV6ZCIUs76EXLOPmTuV5Mgf9Elu0PMhVGIOqXMbkv2XkI3m0tJam2Y0iHtN5kRXZxwFVfHf_LTeRJIP7uvKgnAXHvk2jaSNhB1YKifXS8lWqQg.ceTD0o0mygFYLdwhv8UOQUN4ySi1Fum52VCdAoO0Puw&dib_tag=se&keywords=%E3%81%95%E3%82%88%E3%81%AA%E3%82%89%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%83%90%E3%82%A6%E3%82%A9%E3%83%83%E3%82%AF&qid=1773652577&sprefix=%E3%81%95%E3%82%88%E3%81%AA%E3%82%89%2Caps%2C192&sr=8-1

特設サイト:fr.futabasha.co.jp


①完成度 ★★★★★
②可読性 ★★★☆☆
③エンタ ★★★☆☆
④意外性 ★★★★☆
⑤好き度 ★★★★☆

ひとこと:伊坂ワールド全開!謎が謎を呼ぶ長編ミステリ。読後はあたたかくて爽やかな気持ちに包まれる。

 10月の後半に出版されたにもかかわらず本屋大賞にノミネート。伊坂幸太郎の作家25周年目作品であり、『メガチャーチ』同様かなり気合を入れて売り込みがなされていました。表紙イラストは『約束のネバーランド』作画担当、出水ぽすかを起用しています。同氏は2025年このミス大賞作品の表紙も手掛けており、約ネバ&ミステリファンの私としては嬉しい一年になりました。また、帯には綾辻行人の推薦コメントが書かれていました。ミステリ愛好家の中には、綾辻行人が絶賛していると買いたくなってしまう症状を抱えた人間が――つまり私のような人間が一定数いるので、効果的な販促方法でしょう。

 本書の感想を一言でまとめると、「伊坂幸太郎だなあ」といった感じです。熱心な伊坂読者ではないため確かなことは言えませんが、読書中の感情や読後感は『ゴールデンスランバー』に近しいものがありました。読み終わったときの清々しい気分はこの作者特有のものだと思います。全体の構成や読みやすさも安定感があったため、「闇のメガチャーチ、光のジャバウォック」とでも言いましょうか。ただ、ミステリや小説慣れしていない人からすると読みづらそうだと思いました。本作は主人公らの具体的な目的が明らかにならないまま、伏線として謎めいた描写が多々挟まれます。加えて女性主人公の方がかなり精神が不安定で、「いつか大胆な伏線回収がくる」と信じて読むミステリ愛好家でなければ途中で読むのが苦痛になりそうです。
 宣伝文句の傾向として「予想外のラスト」を推しているようですが、正直に言うと仕掛けに気が付くことは結構簡単でした。またエンタメ的疾走感は『ゴールデンスランバー』などに劣ると思います。それでも、伏線がすべて綺麗に回収されていき物語が結末をむかえるとき、胸にこみあげてくるものがあります。予想がついていた事実が登場人物の口から明かされたとき、涙が溢れてしまいました。私が涙もろいだけとはいえ、やはり25年も小説を書いている作家の構成力は舐めてはいけません。好みは分かれそうですが、素直に読んでいて楽しかったと賞賛できるタイプの作品ですね。


失われた貌(櫻田智也)

(2025/08/25 新潮社より発売)
https://www.amazon.co.jp/%E5%A4%B1%E3%82%8F%E3%82%8C%E3%81%9F%E8%B2%8C-%E6%AB%BB%E7%94%B0-%E6%99%BA%E4%B9%9F/dp/4103564113/ref=sr_1_1?__mk_ja_JP=%E3%82%AB%E3%82%BF%E3%82%AB%E3%83%8A&crid=Y13HM32GJ4EL&dib=eyJ2IjoiMSJ9.kNzhYY_2QzBA5Tmxhjazav6egdCVbJV9sYAMA0IeDst0ZJPxo2fEqQVWH-XdrsNKMyFEs1s4oN6O47tZwhnmNiW1LT-qVme-h09oDc0ubQmYHTCMsR4HlMQbHWDax-5knSi3XQoJ89s2fg3ivIskPbSJga_Z7nHKAQ9FVmR8lvRlmzqLqpznmm0Lwfo-tg435GSy-T9lQRg4Hk8yn1gF4_564aE6O4f8qWeBZRQY9FTIcLs7O30kfkeWqcnCmruTjCl1gAT02ICgQUGJDeYimMM1I2a_ZxI2E3Ch0oA8WjA.sieSB5qXW6plyEV4Pxj6h9P_ZfBZ9DkFB0VoQoHTfQw&dib_tag=se&keywords=%E5%A4%B1%E3%82%8F%E3%82%8C%E3%81%9F%E8%B2%8C&qid=1773655024&sprefix=%E3%81%86%E3%81%97n%2Caps%2C1669&sr=8-1

出版社サイト:www.shinchosha.co.jp


①完成度 ★★★★☆
②可読性 ★★★☆☆
③エンタ ★★☆☆☆
④意外性 ★★★★★
⑤好き度 ★★★★☆

ひとこと:”本格”警察小説。事件の真相が少しずつ明らかになっていくのが面白い。とても真面目な作品。

 櫻田智也の作品は未読だったため、本作が初めて手に取った作品でした。そもそも私があまり警察小説を好まないこともあり、『失われた貌』の存在自体も「このミス」で1位をとった際に初めて知りました。ただ『蟬かえる』や『六色の蛹』が昆虫を主題にしたミステリであることは知っていたため、本作を知ったときは「警察小説も書く人なんだな」と意外に感じましたね。帯に「ミステリ×人間ドラマ」と書かれていたこともあり、メッセージ性を強く打ち出した作品かと予想して読み始めました。

 正直に言って警察小説だからと油断しすぎていましたね。二転三転する事件の真相、思わぬところで結びつく事件と事件。かなり本格ミステリでした。読書中、「ここでその話が繋がるのか!」と驚きっぱなしでした。『本物の「伏線回収」と「どんでん返し」をお見せしましょう!』という宣伝文句は誇大表現ですが、こんなに魅力的な謎解きの警察小説があったのかと感動させられましたね。『ジャバウォック』の方が伏線を回収すると真相にたどり着く王道のミステリの構成でしたが、主人公とともに事件の深さを味わっていくのは面白かったです。
 世間一般では人間味ある登場人物の描写が好評なようですが、個人的には人間ドラマの部分は弱いと感じました。蛇足ではありませんが、それをメインに打ち出すにはメッセージ性が弱すぎるかなと。どちらかというと、お涙頂戴系の警察ミステリに苦手意識がある人におススメな良質ミステリという印象を持ちましたね。そのため、ミステリ読者ではない人への求心性に欠ける部分があると思います。事件自体も身元不明の死体がみつかったという地味なものですし、エンタメ的観点でも一般受けは難しそうです。私は予想以上の出来だったので満足でした。

殺し屋の営業術(野宮有)

(2025/08/29 講談社より発売)
https://www.amazon.co.jp/%E6%AE%BA%E3%81%97%E5%B1%8B%E3%81%AE%E5%96%B6%E6%A5%AD%E8%A1%93-%E9%87%8E%E5%AE%AE%E6%9C%89-ebook/dp/B0FM3RG94G/ref=sr_1_1?crid=2ZZU63E9MLE4R&dib=eyJ2IjoiMSJ9.i5EZY00Jy3Hmc6voEXQeQLJT16uyMSiSbZaAT_EOSI0Zh9SD6B5SJ6tcO3f0IO4Fd84vJvBX7z-m_IYNolKFJORAusMxi6Mzgc1N6H1bn9ULsddxAgU39U_20-ShaT28Vy27j6M0Agr4_HsrKOnhOfLLxTSCAKWdh5yZZ0rdv__r90-hrCvXS0WF4DRPt6TxXOYnGvwNGcysaH4btr63SZ1TE3UolAuB7itYPQ2_HP4dO6_z0VK3eohXPXEUMZPDV6r1Bj3nDIQHeYhnM1-S9RmVwwew462_yZbWektVJSs.2s1lIztLvk1lqEK1bb42PjXIkfM17CLHNk1aKFkJhH0&dib_tag=se&keywords=%E6%AE%BA%E3%81%97%E5%B1%8B%E3%81%AE%E5%96%B6%E6%A5%AD%E8%A1%93&qid=1773657187&sprefix=%E6%AE%BA%E3%81%97%E5%B1%8B%E3%81%AE%2Caps%2C219&sr=8-1

スペシャルPV:www.youtube.com


①完成度 ★★★★☆
②可読性 ★★★★☆
③エンタ ★★★★★
④意外性 ★★★☆☆
⑤好き度 ★★★★★

ひとこと:営業という斬新な切り口で描かれた殺し屋頭脳戦。主人公がとにかく魅力的。エンタメ性も随一なライトミステリ。

 江戸川乱歩賞受賞作とあり、読む前からかなり期待は高かったですね。個人的なミステリ新人賞のエンタメ性は このミス大賞 > 乱歩賞 > 鮎川哲也賞 の順だと思っていたので、2025年このミス受賞の『謎の香りはパン屋から』を差し置いてノミネートしているのは意外でした。また帯に主人公のイラストが載っているのが目を引くと思っていました。キャラクター性重視のミステリでは表紙に探偵や助手役が描かれがちですが、帯にイラストがあるのは珍しい気がします。

 「本当に新人の作品か?」と思いながら終始読んでいました。選考時コメントにも同様のことが書かれていましたね。どうやらライトノベル作家として既に商業作品を出している方だったようです。合点がいきました。ミステリとしては粗削りな点がありますが、エンタメ作品としてはかなりの完成度を誇っています。ライトノベル出身の作者だからか文章が軽快で、小説慣れしていない人でも読みやすいでしょう。絵面も派手なので、映像化向きの作品ですね。2025年のこのミス大賞の文庫グランプリをとった『一次元の差し木』が早くもドラマ化が決まっているので、是非はともかくこの作品もドラマになりそうな予感がします。
 個人的に一番好きなポイントは主人公のキャラクター性ですね。そもそも帯に描かれていた見た目も好みでしたが、特筆すべきは性格。表社会の人間だった主人公が裏社会で活躍していく様子は読んでいてゾクゾクしました。ラストの台詞もかなり痺れました。営業×裏社会という斬新な設定以外は展開が読みやすい作品でしたが、ラストシーンは予想外で素直に驚きましたから。主人公以外の人物の掘り下げの甘さは気になりますが、続編の出版が決まっているようなのでそちらに期待です。

探偵小石は恋しない(森バジル)

(2025/09/18 小学館より発売)
https://www.amazon.co.jp/%E6%8E%A2%E5%81%B5%E5%B0%8F%E7%9F%B3%E3%81%AF%E6%81%8B%E3%81%97%E3%81%AA%E3%81%84-%E6%A3%AE%E3%83%90%E3%82%B8%E3%83%AB-ebook/dp/B0FQV1RLYF/ref=sr_1_1?__mk_ja_JP=%E3%82%AB%E3%82%BF%E3%82%AB%E3%83%8A&crid=7HCXJN4NRDXW&dib=eyJ2IjoiMSJ9.qzpUKZk3YS9rFm5EmRVUgtmBsIGu49aLcCm_X4-MB--jhYmBznL-AiGBDzMEgRprSmZG5rmC9QPGvYcQ6ApZhr6lE8i1tjwLE_taEkk_ku-2BEoO5rtsIPTreTosDUZNezlnSxsc9b4u9BOruD2DElSEWrC17VIUaU3nJaKnvFML0HDb-A-rgs0G3LRV6ePxULLIUbhEGminEEtmQ-sfv74t_EC-sIyNivQ5hH_nRyCoJNdLPA42xt6gXiwiJa9NfUzuKhyqpv6PexrQz5BoCmo8lV9R-dpDRNvOZrl0ESc.54g4hre4JJ3OVeemBgiDbj1_ps5R2YyCiLMARt57_DI&dib_tag=se&keywords=%E6%8E%A2%E5%81%B5%E5%B0%8F%E7%9F%B3%E3%81%AF%E6%81%8B%E3%81%97%E3%81%AA%E3%81%84&qid=1773659227&sprefix=%E6%8E%A2%E5%81%B5%E5%B0%8F%E7%9F%B3%E3%81%AF%E6%81%8B%E3%81%97%E3%81%AA%E3%81%84%2Caps%2C198&sr=8-1

特設サイト:www.shogakukan.co.jp

 
①完成度 ★★★★☆
②可読性 ★★★☆☆
③エンタ ★★★★☆
④意外性 ★★★☆☆
⑤好き度 ★★☆☆☆

ひとこと:いろいろな意味で一番熱い思いを抱いている作品。構成は良いと思う。思うのだが……。

 メフィストリーダーズクラブの会員として、MRC大賞で1位となった本作には注目していました。実際ミステリ好きの間ではかなり話題になっていたように記憶しています。ただ森バジルは『ノウイットオール』の文庫版を放置していたため、そのあとに『探偵小石』を読もうとした結果読むのが遅くなってしまいました。余談ですが『ノウイットオール』の表紙を手掛けたオオタガキ フミは『午後のチャイムが鳴るまでは』の表紙も手掛けています。『午後のチャイム』をポストカード付で購入した私はこのイラストレーターの絵を気に入っており、『ノウイットオール』を表紙買いしました。そして積読していたというわけです。

 本作は非常に良い作品なんだと思います。いかにも新本格オタクが好きそうな作風だったので。本来なら私も激推ししていたと思うのですが、どうしてもエピローグの展開に納得がいかず。結果的に好き度がかなり下がってしまいました。また意外性も高い評価をすべきだと感じています。しかし、残念なことに真相を5割くらい見抜いてしまったのでこちらも低評価となってしまいました。あるミステリ作品に構造が酷似しているため、類推で結論にたどり着いてしまうミステリ読者は多いと勝手に考えておりますが……周囲の方の率直な評価を聞きたいものです。経験値のあるミステリ読者は謎を看破できるとして、一般受けはどうか。おそらく”驚愕の真相”にはなっているでしょうが、複雑な構成がミステリ初心者に受け入れがたいのではないかと思いますね。
 本作の宣伝文句も批評していきます。「彼女の一言で世界は一変する」――これは納得できないですね。『十角館の殺人』レベルの一文を期待していたので、肩透かしを食らった気分になりました。あまり「一言」感もありませんでしたし。確かに該当の展開は驚きましたが、前述の通り見えている部分が大きかったため「一変」ではなく「半変」くらいでしたね。むしろ何故頑なに謎を隠したままでいるのかモヤモヤしながら読んでいたので、「やっと解説パートか」という思いが強かったくらいです。
 上記以外にも本作に思うことは多々ありますが、本屋大賞ノミネート作品レビューとしてはこのくらいで終わりにしておきます。続きはネタバレ有り版のレビュー、または独立した批評記事で語るつもりです。

総評&大賞予想

 5作品しか読んでいない私目線でも、今回のノミネート作品はどれもレベルが高いと感じました。またミステリ率の高さにも驚きましたね。私が読んだ『メガチャーチ』以外の4作に湊かなえの『暁星』を加えた5作品がノミネートされています。昨年は『禁忌の子』と『死んだ山田と教室』の2作品だったのに対し、半数がミステリという異常事態。日本の文芸界にはミステリの波が来ているのですかね。喜ばしいことです。

 さて。5作品を読んだ結果、私が大賞に選ばれそうだと感じた作品。それは……

『イン・ザ・メガチャーチ』です!

 往々にして一番最初に接したものは、相対的評価が下がりがちです。それでも、この作品が最も完成度が高く一般受けが良いと感じました。作者の圧倒的な筆力は大前提として、昨年の『生殖期』と比較してテーマが現代社会に受け入れやすいのが大きなメリットですね。実際に推し活トラブルは最近注目を集めています。話題作、衝撃作として売り出すのにこれ以上適した作品はないでしょう。

 ただ、これだと恐ろしくつまらないのです。本屋大賞は「売り場からベストセラーをつくる!」をモットーにしています。その根幹にあるのは書店員のこの本を売りたいという強い思い。その点から鑑みると、有名作家の既に売れまくっている作品を売ってもつまらない。そうは思いませんか?
 ということで、私の完全な好みで大賞受賞作の大穴を予想します。つまり私が受賞してほしいと思っている作品は……

『殺し屋の営業術』です!

 『メガチャーチ』と比較すると、完成度や構成力は劣ると思います。しかし斬新な視点から描かれる頭脳戦、エンタメ性の高い内容は魅力的です。「なにより読書中ワクワクするか」という点では、『メガチャーチ』以上でした。作者も商業作家歴があるとはいえ、まだまだ新人さんですし。ここらで人口に膾炙した「本屋大賞」という箔をつけて、ブーストしていければ良いのではないかと思います。

 ほかの作品についても述べましょう。『ジャバウォック』は『メガチャーチ』に次ぐ完成度だと思いましたが、やはり好き嫌いが分かれそうな内容がネックですね。『失われた貌』と『探偵小石』はミステリ読者でないと受け入れがたい点があると思います。『失われた貌』の方は人情要素が強ければもう少し一般受けしそうだと思いますが、変に同情を誘う内容でないのが魅力だと思っているので仕方がないです。

まとめ

 ということで順当に考えれば『イン・ザ・メガチャーチ』が大賞。本屋大賞ならではの逆転を狙うなら『殺し屋の営業術』にも可能性あり、という結論になしました。
 以上の予想はノミネート作品の半分だけで判断しているため、他作品の内容次第ではかなり意見が変わると思います。村山由佳の『PRIZE―プライズ―』はかなり評判が高いと聞きますし、私の知人曰く佐藤正午の『熟柿』が一番良かったそうなので。個人的には残りのミステリ作品『暁星』くらいは大賞発表前に読んでおきたいと思います。

 一応、今回紹介した5作品についてネタバレも含めてレビューする『本屋大賞ノミネート作品 半分読んでみた(ネタバレあり版)』も執筆予定ですが、今のところ原稿はできていないので何とも言えません。どうにか4月に入る前にネタバレ有り版のレビューを完成させたいですね。

2025年 面白かった本BEST20⑥ 1位

第1位 さくらのまち(三秋縋)

さくらのまち

さくらのまち

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 国民一人ひとりが装着する腕輪型デバイス(作中では「手錠」という言い方をしている)によって得られたデータから自殺する可能性の高い人物を検知し、その人物の周りに適切な友人、通称「プロンプター」(サクラとも呼ばれる)を配置することで、当人の孤独を和らげて自殺率を低下させようという試みがなされた。とある北国の町で孤独な生活を送っていた中学生の尾上匡貴は、ある日突然、教室の華・高砂澄香、クラスのまとめ役・鯨井祥吾と交流を持ち始めるようになり、やがて3人は親友となる。しかし尾上はだんだんと「2人は自分のサクラなのではないか」という疑いを強めていく。そしてあることをきっかけに彼らが尾上のサクラだと判明し、3人の友情は決裂する。
 やがて地元を逃げるように離れた尾上は、かつての苦い思い出のせいで人に心を開くことができず、現在はマッチングアプリで相手にされない人たちを相手にサクラを演じて生活している。そんな彼のもとに、謎の人物から「高砂澄香が自殺した」という電話が入る。かつての思い出を清算するために、尾上は「さくらのまち」へと舞い戻る。そこで彼が出会ったのは、澄香そっくりに育った、澄香の妹・霞だった。澄香の死の真相を調べるという体で霞に接近し仲を深めた尾上だったが、突然、霞のプロンプターに任命される。霞に自殺願望があることに驚きながらも、変わらず友人として接し、思い出を重ねたところで正体をばらして突き放してやろうと決める。あの日、自分がされたことをそのままやり返して復讐するために……。

 導入としてはこんなところか。この後どんな展開になるのかは各自で読んで確かめてください。
 以下の感想にはネタバレを含みます。

 読んでいて2つ気になるところがあった。まず、終盤に尾上が鯨井を探しに行き、鯨井の車を遠い場所にある人目のつかない神社で発見する場面。「(尾上と鯨井の)2人は妙なところで気が合う」「以前3人で桜前線を迎えに行こうとしたことがある」といったことだけで車を見つけられるのか?これに関しては、本文中にも根拠はそれだけだという言及があるから別にいいような気もするが、もう少し説得力を持たせてもよかったかもしれない。
 もうひとつは鯨井の最期だ。鯨井が残した手帳の最後に「死に際に謝るってのは、何だか卑怯な気がする」とあるようにもう死んでいるのだろうし、僕も大方自殺だと思っている。ただ、鯨井は尾上と澄香に嘘をついたことに対してまったく後悔していないし、手帳には「たぶん俺は、澄香に殺されると思う」という書き込みもある。ただの妄想か、実現した予想だったのか(嘘をつかれて怒った澄香が鯨井を殺し、その後自身も命を絶った、という解釈もできなくもなさそう)。そのあたりは読み手に委ねたのかもしれないが、結構重要なことだと思うのでしっかり書いてほしかった。

 じゃあなんで高評価なんだよと言われそうであるが、それ以上に素晴らしい作品だからである。情景描写、設定、展開、キャラ造形、どれも好みで、そして終わり方がハッピーエンド厨の僕に大きな痕跡をつけたからだ。凍死を試みる場面では本当に死が這い寄ってくる感触がこちらにも伝わってくるようだった(この文章を書いている時点ですでに『恋する寄生虫』も読んだが、こちらにも凍死の危機が迫る場面があった)。
 作中では、尾上のように親しい人をサクラではないかと疑う人、サクラとして演技を何度も経験したことで偽りの関係の中でしか生きられなくなった人といった、システムによって変わってしまった人の話が随所に散りばめられている(これは『君の話』にも言えることだ)。これらが効果的に作用し、物語への没入感をうまい具合に与えてくれた。
 誰が読んでも傑作というよりは、自分の好みにばっちり合致した作品であると言える。
 そして、この本を年間ベストに選んだのには、もうひとつの大きな理由がある。
 この本を読んだのは、北陸を旅行しているときであった。普通列車で長い間揺られ、乗り換えを繰り返す。乗客は少なく、座ってゆったりと本を読むことができる。疲れたら窓の外を眺めたり、スマホをいじったり、たまに寝たりする。素晴らしい時間だった。
 適切な場所で、適切なタイミングで、適切な本を読むと途方もない相乗効果が生まれるのだと知った。そしてこの効果は、意識して構えているときには訪れない。後になって振り返った時に「ああ、あの時にあの本を読んだのは本当に素晴らしい体験だったんだ」と思えるような、そんな読書が理想である。本当はこのこと自体を知らない状態が一番望ましいのだが。


 というわけで、長らくお付き合いいただきありがとうございました。これで「2025年 面白かった本BEST20」は終わりです。
 上位5冊すべてが『〇〇の〇〇』というタイトルになっているのはたまたまだよ。

今年の目標:年間100冊!

2025年 面白かった本BEST20⑤ 2位

第2位 君の話(三秋縋)

 中学生、高校生くらいの頃、「病気やら住んでる世界の違いやらで会える時間が少ないヒロインとのせつない恋愛小説」が流行っていた。当時硬派を気取っていた僕は、そういった本を本屋で見るたびに「こんなの一生読まないぞ」と心に誓ったものである。それ以降、そういうジャンルのものは(あらかじめタイトルや表紙とかであからさまに推測できるものは)ほとんど読んでこなかった。例外は「僕は明日、昨日の君とデートする」くらい。これも「本当に試しに読んでみるか」程度の動機で読んだだけだった(言い訳)。そこまで悪くはなかったはず。





 『君の話』は、ともすれば昔の僕が馬鹿にしていたジャンルのど真ん中に位置してもおかしくないようなストーリーである。手違いにより偽りの記憶を植え付けられた青年・天谷千尋の前に、その記憶にしか登場しないはずの幼馴染の女の子・夏凪灯花が現れる。実在しないはずの幼馴染を装って心の弱みに付け込んで騙す詐欺かもしれないと考えた千尋は灯花に冷たく接し、彼女がボロを出すかどうか探るが、灯花は本当に昔幼馴染だったかのように優しく千尋に接する。もしかしたら植え付けられたと思い込んでいた記憶の方が本当で、自分はそれを忘れているだけなのではないか……などと千尋は悩む。
 奇妙な二人の関係が進行する前半の「僕」パートが多くの謎を残して終わるのと対照的に、灯花視点で語られる後半の「私」パートで謎がどんどん解けていく。あれはこういう意味だったのか、と何度も感心しながら読んだ。その代わりに現れてくる真実は悲しいもので、死別が確定していることが分かりながら読み進めなきゃいけない。こういうジャンルに耐性がなく、そして僕はハッピーエンド厨なので読み進めるのが苦しかった。でも物凄く面白かった。だからといってこういうジャンルをホイホイ手に取るようになるわけではないけど。
 ちなみに、この本に関する作者へのインタビューが『S-Fマガジン』に載っていたので、これはSFだと思う(超適当)。あと付け加えておくと、これが2024年のTOP20の記事で言及した「年初に出会ったとんでもない作品」である。そして長い期間、2025年ベストの座を維持し続けてきた。

 ただ、普段はハマった小説があったら同作者の別の本をすぐに手に取るタイプの僕が、三秋の本だけは読むことにためらいを感じるようになった。もしほかの作品が面白くなかったら、『君の話』の面白さまでもが減衰するのではないか。いや、そもそもこれを読んだときにたまたまドハマリしただけで、改めて読んだらそんなに引き込まれなくなってしまうのではないか、とかウジウジ思っていたからだ。いろいろ弁解を重ねた挙句、気づけば11月。年の瀬が近づいていた。そろそろいいのではないか、次に読んだ三秋の本が仮に面白くなかったとしても『君の話』に感動したことには変わりはないのだから、と何とか覚悟を決めることができたので、2作目を手に取った……。