名大SF研記録ブログ

名古屋大学SF・ミステリ・幻想小説研究会

クリストファー・プリースト『不死の島へ』の感想

こんにちは、ノボルです。

献本

 先日、東京創元社さんから献本を3冊頂きました。

クリストファー・プリースト、古沢嘉通(訳) 『不死の島へ』


雨井湖音 『僕たちの青春と君だけが見た謎』


小鷹信光 『探偵物語』


この場を借りて。お礼申し上げます。ありがとうございます。




『不死の島へ』の感想

 このうち、『不死の島へ』を読んだので、その感想を書いていきたいと思います。

あらすじ

 1976年、春。ピーター・シンクレアは、予期せぬ不幸が連続し、ロンドンを去ることになった。路頭に迷っていたところ、幸運にも知人に別荘の管理を依頼され、そこに住み込むようになる。
 そこでピーターは、自分自身に向き合うため、自分の伝記を執筆し始めた。「完全な真実には、完全な偽りが必要」という思いから、次第に物語は現実とは離れたものになっていく。ついには〈夢幻諸島〉という架空の世界を生み出し、その世界は現実までも侵食するようになった...

感想

 何とも不思議な幻想小説だった。
 ピーターは、「完全な真実には、完全な偽りが必要」ということで、自身の自伝に〈夢幻諸島〉という架空の世界を作り出す。〈夢幻諸島〉において、「ロンドン」は「ジェスラ」に、別れた恋人の「グラシア」は「セリ」というふうに変えられる。
 途中までは、「現実のピーターが想像した、架空の〈夢幻諸島〉世界」という枠に収まっているが、次第にそれは壊れていく。ついには、その関係は逆転し「現実の〈夢幻諸島〉世界のピーターが想像した、架空の現実世界」と、立場が入れ替わる。そして、その関係までも固定化されたものではなく、互いに交換可能な極めて不安定な世界として、両者が共存することとなる。
 また、ロンドンは雨が降るような寒い街だが、〈夢幻諸島〉は暖かく温暖な世界となっている。2つの世界の気候の違いも、対比を際立たせているといえるだろう。
 「作中作」という関係だと、森見登美彦『熱帯』を思い出した。あちらは、幾重にも「作中作」が続き、最終的には円をなすようになった。しかし、今作は現実と〈夢幻諸島〉がパラレルとして進んだ。
 翻訳小説らしい語りもよかった。内省的な語りが多く、読むのには体力が必要かもしれないが、その語りが〈夢幻諸島〉という不安定な世界を、より一層引き立てているとも言えるだろう。
 作中に登場する「不死治療」も、何かのメタファーとして考察の余地があるかもしれない。
 久しぶりに、こういう硬派なSF?小説を読んで、面白かった。
 

ありがとうございました