名大SF研記録ブログ

名古屋大学SF・ミステリ・幻想小説研究会

死霊たちの宴<上>(スティーヴン・キング他)

死霊たちの宴〈上〉 (創元推理文庫)

死霊たちの宴〈上〉 (創元推理文庫)

ゾンビものなんて良い趣味ではないと思って敬遠していたのだが、勧められたため読んでみて驚いた。相当に面白かった。良い趣味でないことには間違いないのだが。
上巻は9編。特に良かったものをいくつか抜き出して感想を述べたい。

「ホーム・デリヴァリー」スティーヴン・キング

ある意味でこの短編集の核であるといえるかもしれない。
とある島には墓場が一つしかない。ゾンビもまだ発生していない。つまり大都市がいくつも壊滅状態にある中でも、この島の人々には生き残ることができる可能性があるのだ。住民はゾンビ発生に備え準備をする。ゾンビの恐怖よりも、生き残る人々に焦点を当てた作品。
主人公は、夫を失った妊婦であり、一歩離れた彼女の視点が物語の核となる。夫を失い半ば壊れかけた妻の、淡々とした態度が不気味。

「始末屋」フィリップ・ナットマン

予想できていたはずなのに、正直驚いた。ゾンビの常識を覆す作品だからである。ひねりのきいたシンプルな作品だと思う。好きである。

「地獄のレストランにて、最後の逢瀬」エドワード・ブライアント

エスタンな匂いのする環境でのゾンビもの。保安官とか出てくる。
ヴァイオレンスの中にある悲劇のロマンスといったところだと思う。ありがちで陳腐な匂いがして、どうも素直に楽しめない点も多々あった。特にキャラやその関係の周りのことである。人間のドラマがイマイチ。だが、ゾンビと対するあたりの描写や展開は面白い。

「胴体と頭」スティーヴ・ラスニック・テム

どう評価すればいいのかわからないが、読んでみて気持ち悪い感じが残った。この作品では、ゾンビなのか人なのかがよくわからないのである。もしかしたらそれはゾンビなのかもしれないし、ゾンビになるのかもしれないのだが、見た目は重度の精神疾患であるから、看護婦は感染者を看病しなければならない。本来倒すべき化け物であるゾンビがそのように扱われるというのが何とも。個人的にはあまり好きにはなれなかった。

「選択」グレン・ウェイジー

ゾンビが大量に発生し滅びかけた世界を行く男の話。と書くと普通に思われるが、普通である。無駄に長い感じはあるが、佳作だと思った。日記をうまく使うことで、男一人の話として完結させていないという点が気に入った。それと、絶望の中を戦々恐々と行く男の精神描写が良い。

「おいしいところ」レス・ダニエルズ

これによってこの本は星四つから星五つとなった。今のところ最高のゾンビものである。非常に奇妙でもあり、また興味深くもある。なんて言えばいいのかよくわからないな。名作なんだけど。
ゾンビがある意味で普通の人間のように生活するさまを描いている。本来食欲のみにより動くゾンビが人間らしらを取り戻した時、そこから何が生まれるのだろうか。まさかそんなものが、と思った。ギャグでもある。にやりとさせられる。
(條電)