名大SF研記録ブログ

名古屋大学SF・ミステリ・幻想小説研究会

量子回廊

量子回廊 (年刊日本SF傑作選) (創元SF文庫)

量子回廊 (年刊日本SF傑作選) (創元SF文庫)

「虚構機関」「超弦領域」に続く、年間ベストSFアンソロジーが三冊目。まだ読んでいない人も多いと思うので、ネタバレは極力押さえ簡単な紹介に止めようと思う。
とりあえず最初に言いたいことは、「前に比べてなんだか厚い」こと。新人向けの賞が増えてきており、その影響か力作が随分増えてきているらしい。例えば、「第1回創元SF短編賞受賞作」として松崎有理の「あがり」が収録されていたりする。漫画も何故か今作は二篇組み込まれており、何となくお得な気もする。
もう一つ付け加えるならば、今回は女性作家の作品が多い。編者によれば収録作品の半分が女性によるものなのだそうだ。ただ普通に読んでいて、男性だの女性だのと思う場面はなかったと思う。また男女だけでなく、老若つまり全くの新人から、アンソロではしょっちゅう見る大ベテランまで揃っているのだが、こちらは何となく違いが分かるところが面白い。いや当たり前か。とにかく、色々な人の色々なSFが蒐められている。
おかげでボリュームのある一冊である。ただ、なんというか、面白かったかと問われると、別にそうでもなかったというのが正直なところ。正確に言えば、そりゃあ一つ一つのレベルは高いのでつまらない作品もないのだが、突出して「これは…!」というのが無かった。そのため全体的に影が薄い。
価格も高くなってしまったことだし、あるのなら読むべきだとは思うが、そんなにおすすめは出来ないのである。(條電)