名大SF研記録ブログ

名古屋大学SF・ミステリ・幻想小説研究会

ラストハザード

ラストハザード [DVD]

ラストハザード [DVD]

ゾンビ映画としてはとても珍しい人格のあるゾンビを描いた作品。むしろゾンビ映画なのか。
舞台はアメリカ。ある時を境に突然、死んだ人が甦るという事件が相次ぐ。甦った人は生前の記憶や思考能力を持っており、彼らは生前と変わらない生活を送ろうとしていた。しかし、彼らはその外見(殺された時の傷や朽ちていく肉体)のために差別を受けていた。主人公のアンジェラも彼らのひとりだ。彼女は彼氏に殺され、甦った。こうして人間と甦った人の社会が出来上がった。そんな中、一部の過激な考えを持つ人間たちが甦った人たちを殺し始めた、“ゾンビ狩り”という名のもとに・・・。
冒頭はこんな話。甦った人は自分のことを“ゾンビ”とは言いません、それは嘲る言葉だから。彼らは自分のことを“半死人”とか“不死症候群”と言います。自分は人間であり、今の状態は病気の一種だと考えているのです。しかし、彼らはすでに死んでいるため、食べ物を消化できません(ただし生肉を除く)。死後も人間らしく振舞おうと考える彼らの集会で、消化できずに吐いてしまうことをわかっているのに人間性を保つため、ドーナッツを食べ、そして吐くシーンには涙さえ出てくる。序盤はこんな話です。
しかし、物語は中盤から大きく変動する。「ゾンビを殺して何が悪い!」と言う人間がいるということは、「人間を食べて何が悪い!」というゾンビがいるということが当然考えられる。そしてこの映画ではそういうゾンビたちが存在する。ゾンビが殺されてる事件が続く中、人間が失踪するという事件が起きる。そう、ゾンビたちが人間を食べているのだ。ある時、アンジェラは友達に誘われてドライブに出かけた。それが人間を食べるゾンビたちの集会に向かうとも知らず・・・。集会場で人食を目の当たりにしてアンジェラは葛藤する。人間はおいしい、でも人間を食べることはいけないことだ、と。
その場に偶然にも居合わせた人間がいた。アンジェラを殺した元彼である。彼は別れた後もアンジェラのことが気になってストーカーをしていたのだ。彼はゾンビ狩り部隊に連絡を取る、なぜなら彼もその部隊の一員だったから。そしてゾンビ狩り部隊が到着した。果たして、アンジェラは、そしてゾンビ達はどうなってしまうのか・・・。
これ以上書くと映画全編文章化してしまいそうなのでここであらすじは終わりです。
さて、ではレビューを始めましょう。
まずこの映画が私の中で特別な位置にあるのは、この作品が私の大好きなゾンビ映画の中でも特異な作品だからです。普通ゾンビと言ったら、モンスターだと思うでしょう。知能はなく、人間を殺し、喰らうことで食欲を満たす怪物だと。しかし、「ラストハザード」のゾンビはそうではありません。前述の通り、この映画のゾンビは、中身は普通の人間と変わりありません。彼らは喋ることもできるし考えることもできるのです。そこがこの映画の特徴的なところだと思いました。そしてゾンビをモンスターではなく人間の延長線上の存在として描くことによって、普通の人と少し違うだけで人間は差別をしてしまう、という社会的問題を映画の中で提起しているように感じました。
最後に、この映画の主役2人について少し書きます。この映画の主役は、アンジェラと隊長です。アンジェラはゾンビ側の主人公、隊長は人間側の主人公、というような印象を受けました。
まずアンジェラですが、彼女はとても不幸な女性でした。彼氏に殺されゾンビとなり、ゾンビになったために差別を受け、社会から見捨てられてしまう。それが彼女の運命でした。可哀想で可哀想でしょうがありません。しかし、アンジェラは挫けませんでした。彼女はたとえゾンビとしてでも「生きる」ということを選択したのです。彼女はとても強い女性でした。
次に、隊長です。隊長も女性です。ゾンビを虐殺するリーダーは女性でした。この映画、見ていると本当に女性が強いです。そして男性は情けないくらいに弱いです。ショットガンで頭蓋をぶっ飛ばす、ナイフで首を切り落とすなど、常人の精神状態ではできそうにないことをいともたやすくやってしまう彼女は何かゾンビに恨みでもあったのでしょうか。彼女の過去などが劇中で深く掘り下げられなかったことは残念なことです。彼女はとても強い女性でした。
(ワタナベ)