名大SF研記録ブログ

名古屋大学SF・ミステリ・幻想小説研究会

時砂の王(小川一水)

時砂の王 (ハヤカワ文庫JA)

時砂の王 (ハヤカワ文庫JA)

小川一水縛り、でもないけどまた小川一水です。今回の内容はタイムリープ(+恋愛)かな。恋愛要素は動機づけの一環でしかないかも。まぁ歴史改変もの、および戦争、アクションです。多世界解釈の世界において、未来人が"人類の歴史"を救うために卑弥呼の時代まで遡って戦います。「未来からの援軍はまだか!」というちょっとアレな意味のセリフが印象的です。『復活の地』の感想ではスミルちゃんかわいいとかアホなこといってましたが、今回は卑弥呼よりオペレータのがかわいk(殴
小川一水の作品は主人公や取り巻きのおつむが足りないなんてことはないのに物語が進んでいくのはなんでかなぁとおもったんですが、やっぱりそれは人間とは別のところで状況がいやおうなく変化していくから、ですかね。明確な意思を持ち、行動力のあるキャラクターが不条理な現実と戦っていく姿が違和感なく自然に受け入れられるのは作者の力量によるところが大きいのでしょう。
今作では過去の改変による未来の変容という厄介な問題をうまく取り込み、むしろ設定として積極的に利用していて感心しました。設定や流れを大枠で語ってしまうとどうしても陳腐に聞こえてしまいますが、妙に説得力のある作品でした。ギャグ要素はなく、どちらかといえばしんみりするお話です。
個人的には分量がやや物足りなく盛り上がりが足りなかったので評価は"それなり"ですが、逆に言えば読みやすい作品なので興味のある人はぜひ。(まつの)