名大SF研記録ブログ

名古屋大学SF・ミステリ・幻想小説研究会

神様のパズル(機本伸司)

神様のパズル

神様のパズル

気づけば初めての小説のレビューがこれ…
卒業が危うい落ちこぼれ学生・綿貫は片思いの保積さん目的で素粒子理研究室に所属することになる。とにかくゼミの単位が欲しい綿貫は、建設中の研究施設「むげん」の敷地内にある田んぼの手伝いに動いたりと教授のご機嫌とりに動く。
そんな中、教授の鳩村から頼みごとをもちかけられる。内容は、16歳ながらも飛び級で入学したものの大学に来なくなってしまった天才少女・穂瑞沙羅華を大学に来させ、メンタル面で支えてあげて欲しいとのことであった。その頼みを受けた綿貫は穂瑞の家に赴くが、彼女は大学に全く興味を示さない。
そんな中、熱心に授業を受けている橋詰老人が綿貫に「本当に宇宙は"無"からできたのか」と質問を投げかけてきた。上手く答えることのできない綿貫は、老人を穂瑞のものに連れて行く。やがて「宇宙は作れるのか」という質問に移り変わり、穂瑞はそれに答えることができなかった。
後日、ゼミでの研究発表のテーマを決めるための集まりに穂瑞が現れ、「宇宙を作れるかどうか」というテーマを提案する。
この作品が面白いかどうかと言えば、明らかにつまらない。結局、どこに行き着いているというのだろうか、この作品は。結論も過程も、何もかもがおかしいのである。これは物理を使って世界創造に取り組もうとしている話なのだ。確かに素人にはわからない単語がたくさん羅列されていて、なんちゃって物理が好きな私にはたまらない感じなのだが、それがストーリーの中核に絡んでこないのである。「宇宙はどうやってできたのか」という問いは一応筋を通してテーマになってはいるが、だからと言って宇宙を作る必要はやっぱりどこにもなく、そんなことだったら哲学にでも任せておいてくれといった内容なのである。しかも、気づけば勝手に主人公が自己完結していて、「え、物理はどうしたの?」といった終わり方も酷い。主人公が理学部のくせに常に文系思考なのが気になる。なんなんだろう、彼。
だが確かに、途中で出てくる「光子場仮説」は面白い。本当にこれで色々説明できそうな気がする。もっとも、きちんと物理をかじっている人が見ればなんだかおかしなところがあるのかもしれない。まあ、フィクションなのでそこはツッコミなしよといった感じなのだが、作者が屁理屈ででも何でも、「宇宙を作ろう」としているのはわかった。作る必要はやっぱりないのだが。
そういえば、どこかのレビューで「これはライトノベルではない。ライトノベルなら、もっと萌え萌えしたキャラクターを持ってくるでしょう。」と穂瑞に対して記述があるのだが、この人、一体何を勘違いしてるのかわからない。穂瑞はぶっきらぼうな物言いで、プライドが高く、でも芯はあんまり強くない天才飛び級少女(16)なのである。超萌えですよね、これ。私は何とも思わないのだが。まあ、前述のレビュー書いた人の「萌え」って何、って話なのだが。で、これがライトノベルかどうかというと…まあ、一応、違うかな、って感じである。定義が微妙だが。表紙が誤解を招きやすいのだが、割とやってることは誠実っぽい。まあ、ヒロインはこんなだけど。
つまらない、つまらないと言ったが、機本の他の作品も読んでみたいという感想を、読後に抱いた。ストーリー瓦解してるくせにどうしてそんな思いにいたったかというと、やはりその原因は「光子場仮説」に尽きるのかもしれない。それを活かせているということは全くないが、少なくとも面白みはあった。「宇宙を作る」という行為自体はシンプルでわかりやすく興味をそそられるし、他の作品では「神をつくる」だとかいうテーマもあるそうだ。どんな風に物理を使ってそれを(なんちゃってながらも)説明するのか、その一点だけでも、読んでみたいと思える価値はあるかもしれない。
まあ、つまんないでしょうけどね。(坪田)