名大SF研記録ブログ

名古屋大学SF・ミステリ・幻想小説研究会

ねこのばば (畠中恵)

ねこのばば しゃばけシリーズ3 (新潮文庫)

ねこのばば しゃばけシリーズ3 (新潮文庫)

 大江戸妖怪人情推理帖「しゃばけ」シリーズの三作目。今回も前作「ぬしさまへ」に続いて短編集となっている。今作は狐憑きをはじめとして人間の暗い部分に踏み込んだ作品が多く、読後感に多少の引っ掛かりを感じることが多かった。五編中の二編について簡単な感想を書こうと思う。
「茶巾たまご」:若だんなの体調が良かったりと良いこと続きの長崎屋。若だんな達は店に福の神が来たのだと思うが思いつくのはとても福の神とは思えない金次だけ、そんなとき兄さんの見合い相手の家の者が殺されたという知らせがあり若だんなが解決に乗り出すという話。読んでいる間金次の待遇があまりにも良すぎて松之助兄さんが可哀想になったが、金次が最後に貧乏神であるとわかり理由が納得できた。下手人の殺人の理由やなぜ人を殺してはいけないかという問いなど人間の自己中心的な部分が垣間見え、この短編集中でも屈指の後味の悪さがあった。
「産土」:店が傾いた為、信じれば金が手に入るという新興宗教を信じる若だんなと主人だが、その宗教を信じた者たちが謎の死を遂げるので若だんなを助けるために佐助が奔走する話。謎の新興宗教、不審な死さらには木偶人形と人との入れ替わりなど全体的にホラー臭が漂うが、この作品の本質は巧妙に仕掛けられた叙述トリックである。ラストのどんでん返しを読めば読んだ人は「やられた」と思うことは間違いない。「殺戮に至る病」に負けず劣らず完成度の高い叙述トリックではないかと思う。個人的にこの短編集中の最優秀作。
 江戸時代が舞台な作品だけあってわからない単語などが多く出てくるが、今作で最も困ったのは「切り餅」である。初め何でこんな時に餅が出てくるのかがわからなかったのでひどく困った。そのため今更ながら読むときに辞書が無いと不便だなと思った。(toshi)