名大SF研記録ブログ

名古屋大学SF・ミステリ・幻想小説研究会

アルジャーノンに花束を(ダニエル・キイス)

アルジャーノンに花束を (ダニエル・キイス文庫)

アルジャーノンに花束を (ダニエル・キイス文庫)

少なくともこれを見ている人で、この作品を知らない人はいないだろう。非常に有名な作品だが、まだ読んでいなかったのだ。
予想以上にグッと来た。ところどころ微妙に冗長感があったのだが、その分ラストの畳みかけが怒涛の勢いで、ついつい涙腺が決壊してしまった。卑怯である。これだけ感情が出てしまったら、この作品は良かったと言わざるを得ないのだから。
あまりにも有名すぎたり、「全世界が涙した現代の聖書」と信者がラノベにつけるかのような銘が打たれていたりして正直心配だったのだが、中身はあくまで「SF」だったのが嬉しい。そう、この作品はSFなんだよね。知能障害者が手術を受けて頭が良くなるというあらすじ的にもそれはすぐ分かるのだけど、読み進めて驚いたのがまずそこだった。もっともこれを読む以前、私がこの作品をなんだと思っていたのかは良く判らない。何か陳腐なメロドラマだとでも思っていたのだろうか?
素晴らしいのは作品なのは事実だが、そうは言っても私がこれまで読んできたSFの中でもずば抜けているという事は無い。ただ、私がこれまで読んできた日記形式のSFの中では断トツだと思う。訳が素晴らしくうまい。知能が上昇するにつれ、漢字が増えて、単語が正しくなって、文章が分かりやすくなって。世界を理解し始めて、しゃべり方が変わって、人との接し方も変わって。恐ろしいことに読まずとも視覚的に主人公の変化が分かってしまうので、先を見ないように凄く気を使った。もしストーリーを知らない人がいたら、絶対にパラッと前の方を覗くのは止めて欲しい。
落ちがどれだけ悲惨なことになるのか、読んでいる間中それがずっと心配だったのだが、ハッピーとは言えないまでも優しいめのエンドが与えられていた。少々引っかかるところがないでもないが、バッドエンドは嫌いなので許す。