名大SF研記録ブログ

名古屋大学SF・ミステリ・幻想小説研究会

AURA 〜魔竜院光牙最後の闘い〜(田中ロミオ)

AURA ~魔竜院光牙最後の闘い~ (ガガガ文庫)

AURA ~魔竜院光牙最後の闘い~ (ガガガ文庫)

ググったら偽OP動画が出てきたw

ラノベが読みたいと思ったので。
まず言わなければならないのが、この本が面白いという事と、このレビューがネタバレになるという事である。ネタバレが嫌な人は最後の一文に飛ぶべし。

次に、愛すべき馬鹿三人とともにごく普通の工二病を満喫した私としては、厨二病にはちょっとこだわりがあるため、この段落以後は厨二病という言葉は使わない。確かにこの本を読めば自然と「厨二病」という言葉が想起されるだろうが、私の意見としては厨二病と工二病は境界こそないもののある程度までは区別されるべきものであるし、この本に登場する妄想戦士の数々は、コメディだけあって通常の厨二病の域を超えている。口調を変えるとか、それっぽい服装をするとかいうところまではまだその範疇であろうが、実際に設定をまとめきって本にし、さらに気合の入ったコスプレまでしてしまうとこれはもう別の病気である。というか多分リアルな精神病である。ここに病院を立てよう。厨二病によって生み出される物は完全にまったく意味のない無駄なものでなければならず、それ以上の場合は自己表現の才能といえるだろう。小説家にでもなるといいと思う。長くなってしまったので、工二病についてはここでは割愛する。あとこんなに言っておいてなんだが、この本に厨二病という言葉は出てこない。繰り返すがこれは単なる私のこだわりである。

この本は重度の(精神病レベルの)妄想戦士(ドリームソルジャー)であるヒロインと、元妄想戦士をやっていたが高校デビューの際に卒業した主人公の学園ラブコメである。何故ネタバレが避けられないかというと、主人公視点ならばいざ知らず、読者視点でこの世界を見た場合、このヒロインが「本当に魔女」なのか、「ただの妄想戦士」であるかの区別がつかないために、結構終盤まで「やっぱりこいつは本物で、突然別世界に消え去ったりするんじゃあねぇだろうか」と思わされてしまうからである。これを、妄想戦士の妄想にあてられた状態と称するらしい。
このような異なる世界(妄想と現実)の書き分けというか合体というのか、その描写が上手い。例えば妄想戦士の皆さんが「貴族グループ」(クラスの中で最上位に位置するイケメンリア充グループのこと)と対決するシーン。当然自分の世界の外では妄想戦士の皆さんは全くの無力なわけで、その状態から卒業した主人公が仲裁に入るまではボッコボコにされている。プギャーm9。ここは妄想戦士の世界の意味が分かる人には、かなりこそばゆいだろう。もうやめてくれー!ってなる。悶える。
他にもそんな感じの場面がある。ヒロインは「竜端子」と呼ばれる何かを探している設定なのだが、途中まで全く登場しないため彼女の設定上のものだと思っていると、実在する。都市伝説的な占いに用いられており、そこそこの数が町の中で秘密裏に出回っているのだ。そうなると確かにこれを全部集めたら何かあるんじゃねーかなぁみたいに思わされてしまうだろう。何かを集めるってのはファンタジーの王道なのだし。
実際、彼女の行きつく先が「現実」なのか「あっちの世界」なのは流石に書けないが、終盤までこの現実と妄想の境界がまるでかさぶたと傷口の境界のようにこそばゆさを生み出す感覚が楽しめると思う。落ち自体はなんか適当だけど。ラノベって、特に落ちに多いんだけど、中身が無くって適当に流してる感の強い部分あるよね。ときどき全編にわたって中身が無い場合もあるけれど。こういうラノベをヘチマのようなラノベと呼びたい。ヘチマには悪いけど。
閑話休題。まぁこのラノベはクライマックスも結構面白いし、過程の部分は糞面白いので全然許せますね。
コメディの部分ばかり語ってきたが、ラブの部分も捨てられない。主人公は高校デビューを目指す元妄想戦士であるのだから、当然現妄想戦士に対しては嫌な感情を持っているわけで、ところがそのノウハウで彼らの世界が理解出来てしまうばっかりに、自然とそっちに巻き込まれてしまう。全てを捨ててもなお過去から逃れられない主人公が本当に可哀相。同情する。ヒロインの世話役になっちゃうのだ、彼。ヒロインは疎ましいしうざったい。でも、世話を焼いてやらないと彼女は過去の自分のような目にあってしまうわけで、それは我慢ならない。揺れる主人公とは無関係に、そういう事を知ってか知らずか、ひたすら自分の設定を貫くヒロイン。通常ならドキッとするような場面も、この食い違いのせいで台無しです。しかし、台無しだからこそ良い、そういうものもあるということが分かって貰えるだろうか。
疲れてきたんでまとめ。クラスの半数以上が妄想戦士のクラスって、ひっでぇよなぁ。本当。
(條電)