名大SF研記録ブログ

名古屋大学SF・ミステリ・幻想小説研究会

ベン・トー(アサウラ)

ベン・トー 1 サバの味噌煮290円 (スーパーダッシュ文庫)

ベン・トー 1 サバの味噌煮290円 (スーパーダッシュ文庫)

ウチの顧問が「昨年最も面白かったモノ」に挙げていたので読んでみた。
前回に引き続きラノベでなんかスイマセン。なにがかって、ラノベは基本まつのの担当であって、私はもっと普通のというか、ラノベじゃないSF担当だと思っているのだ。だから仕事を取っちゃってる感がするわけで。
本題。
半額弁当を奪い合うという、ただそれだけの話。たかが半額弁当、されど半額弁当…というわけなのだが、まぁ半額弁当は半額弁当である。はずなのだが、読んでいくうちにその「狼」と呼ばれる、半額弁当を奪い合う者たちの熱き戦いに引き込まれてしまうのだから驚く。
最初はどうしても半額弁当に命すらかけかねない作中人物のテンションについていけないのだが、気づけばその世界に感情移入してしまうという過程が面白い。ところが引き込まれるといっても、やはり舞台はスーパー、獲物は弁当と、庶民臭さあふれる環境であり、彼らが買い物かごで巧みな戦闘を繰り広げたり、買い物カートを使ってフェンシングの様な突きを繰り出したり、生活力溢れる主婦の操るカートに轢かれて吹き飛んだり、四本の手足で天井に張り付いたりするたびに「これはねーよ!」と叫びたくなる。そうして没頭と覚醒を繰り返すというのが楽しいのだ。そういう意味で、この作品は二巻がピークだと思う。二巻までは「あり得なさ」が突き抜け続けるのだが、三巻からはそれがかなり控えめになってしまい覚醒の部分がほとんどなくなってしまうからだ。向こうに行きっぱなしで、単なる「熱い話」どまりになってしまい、ベン・トーならではの何かがなくなってしまう。二巻までは最高に面白い。
ところどころにはさまれるギャグがまた噴飯ものである。全体的に人を選ぶというかオタ臭いのが瑕だが、しかしどう頑張ってもポーカーフェイスを保てないほどに強力である。ニヤニヤ必須なので電車で読むのはお勧めできない。私のように、世間体という大切な何かをあきらめているのでない限りは。
またこの作者は基本的に「書きすぎる」人らしく、出版の際には書いた原稿の多くを削って作品としているらしい。そういう話を聞くと、元々はもっと面白い話ではなかったのかと思えてしまう。大人の都合で仕方がないとはいえ、残念の極みである。
(條電)