名大SF研記録ブログ

名古屋大学SF・ミステリ・幻想小説研究会

星新一 一〇〇一話をつくった人(最相 葉月)

星新一〈上〉―一〇〇一話をつくった人 (新潮文庫)

星新一〈上〉―一〇〇一話をつくった人 (新潮文庫)

 日本の初期SFをけん引した作家の一人であり、ショートショートの名手として知られる星新一。その星新一に膨大な量の遺品と関係者の聞き込みによってその人となりを明らかにする評伝。星新一本人のみならず、その父星一についても書かれている。また星新一という作家のことを書くため、自然と初期日本SF史とでもいうべき内容にもなっています。
 個人的に作家の評伝というか伝記はだめだと思う。才能のある人物だと明らかに若いころの輝きがなくなっていっているのが見えてしまうのが、悲しいというのがその理由である。星新一が初め持っていた持っていたものが質より量を求められることによってなくなっていってしまうのを見るのはつらい。星新一は父親の会社関連で苦労しすぎている。重役の裏切りとか裁判とかによって誰にも言えない人間関係についてのドロドロとした感情があったのだろう。だからこそ文章では人間味のない無機物的ともいえるものが書けたのだろう。あと個人的に寸評をよむと星新一は鼻にかかる物言いをする嫌な奴な印象だったが、元々は飄々としたような性格でブラックジョークというかキレのあるジョークをする人だというのを知って驚いた。文学界からの不当な評価などで性格が歪んでいっているように見えたので、そういうのを見るのも悲しかった。
 星新一という人物を知るためには非常に参考になると思う。しかし個人的には文章が読みづらいというか、なにかが足りないような気がした。そこを差し引いても良い本だと思うし、自分の中で勝手に出来上がっていた星新一像をぶち壊すには十分な本だった。(toshi)