名大SF研記録ブログ

名古屋大学SF・ミステリ・幻想小説研究会

空飛ぶ馬(北村薫)

うるう日ってYESだね!
さて今日は昨日読んだ本の話をします。北村薫のいわゆる「円紫師匠シリーズ」第一作、ジャンルとしては日常系ミステリですね。

空飛ぶ馬 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)

空飛ぶ馬 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)

推理小説の諸問題」とカッコよく言うと文学部の講義題目みたいだけど、要は現実味がないよねーということです。「なんでわざわざ密室作るの(笑)」「なんで毎回旅行先で事件に巻き込まれるの(笑)」などなどなど。
じゃあ日常系ミステリはどうかというと、起こる謎はあくまで日常のふとした違和感や不思議が主役であります。現実味はあるし、表面的な残酷さが入る余地もありません。
ではこの種のミステリが完全に心の闇的な何かから解き放たれているか。いいえ、必ずしもそうとはいえないのです。むしろどこにでもありそうな舞台、どこにでもいそうな登場人物だからこそ、「謎」が明かされたときそこにあった悪意は増幅されて受け取られる(なかには人畜無害な謎もありますが)。米沢穂信の古典部シリーズなどで言いようのない空虚な読後感を味わった人もいるのではないでしょーか。とにかく、日常系ミステリは舞台が日常であるために、そこで表現される悪意に対しいささか立ち止まって考えなければならなくなるわけです(普通のミステリならその場の悪意も笑ってスルーできるものですが)。


本書には5つの短編が収録されており、主人公である女子大生が落語家の円紫師匠に日常の謎を持ち込んでいく、という形態になっています。人畜無害な謎もあれば読んでひやりとするものもあり、なかなかバランスの取れた構成といえます、ちょっとばかりおとろしい3編をほのぼの系2つで挟んでいるところなど。そして主人公がだんだんと成長していくさまなども読んでいて面白いと思うし。二巻での姉との和解とかとてつもなくいい話であることだなあ。
なんだかんだいって日常系ミステリは面白いので、どっかアンソロジー組んでくれないかなあ。

最近SFの感想書いてねえなあ。まあいいか。(片桐)