名大SF研記録ブログ

名古屋大学SF・ミステリ・幻想小説研究会

PERFECT BLUE(今敏)

PERFECT BLUE [DVD]

PERFECT BLUE [DVD]

本当の恐怖って、こういうところにあると思うんです。
人気アイドルグループ「チャム」から脱退し、女優を目指す霧越未麻。しかし、未麻のもとに舞い込むのは彼女が望む仕事とは違ったものばかり。
ある日、「未麻の部屋」というホームページの存在を知り、それを閲覧すると、自分で記憶しているよりも遥かに細かく日々の日記が書かれていた。
ストーカーの存在を知った未麻は、上手くいかない仕事のストレスと相まって、アイドル時代の自分の幻覚を見るようになる。
今敏が手がけた、世界初のサイコサスペンスアニメーション(CC曰く)。何だか普通に怖い。よくある心霊ホラーと似通った意味合いを持ちつつ、ベースになるのはあくまで人。だからこそ、自分に起こっても全くおかしくないわけで、自分は本当に自分なのかが激しく揺さぶられる。アイデンティティの危機に人が恐怖を抱くのは当たり前なので、まぁ、怖いのも当たり前かと。
この作品ではカットを多用していて、その中で現実、夢、幻覚、記憶、劇中劇が激しく交錯することになる。現実かと思ったら夢。かと思えば実は現実で、いや、それはただの記憶でしかなく、なんだと思ったら実は現実で。といった具合で、とにかく見る側の意識がかき混ぜられていく。そのマトリョーシカのような多層構造がかなりよくできている。結局、この作品はどこに行き着いて、真相は何なのか。そういったことも一応、最後には明らかになっている。ただ、じゃあ、作中のどれが現実で、どれは仮想なのか。そこまではわからないので、それを探って議論しながらというのも、また面白い見方ではないかと思います。
で、この作品の後味ですが、個人的には悪くありません。SAWのようにすかっと「騙された…!」感があるわけではないのですが、この作品を見て、ずるずると揺さぶられたアイデンティティを引きずることはなく、割とすっきり見られました。でも、やっぱりそれも個人差があるだろうし、ほとんどの国ではR-18(日本ではR-15)になってるので(えちぃから?いや、違うよね)、一応、見るときは気をつけて見てください。まぁ、SAWを楽しく見られる方には何てことはないと思います。方向性は違いますが。
ちなみに、DVDのメニュー画面を夜中に1人でずっと見てると頭がおかしくなりそうになるので、気をつけてください。音楽がなんか怖い。
「もう自分のことがわからない。
一秒前の私と今の私、どうして同じだとわかるの?」
パッケージより(坪田)