名大SF研記録ブログ

名古屋大学SF・ミステリ・幻想小説研究会

諸階段

本日2回目の更新
初レビューなので迂闊なこと書いて叩かれないよう、俺以外まず間違いなく読んでいる人がいないであろう本を選らんでみた。
本のタイトルは「諸階段」。著者は「武蔵野美術大学文芸部」である。武蔵野美術大学と言えば先日読書会をしたばかりの伊藤計画(何故か上手く変換できない)の出身校である。もしかすると伊藤計画(ryもこの部に在籍していたかも知れない。同じ環境にいる人の作品を読むことで伊藤(ryについて新しく得るものがあるかもしれない。つまり、この本を読み、レビューをすることで伊(ryのことをよりよく知ろうという訳である。
ちなみにこの部ができたのは一昨年である。


とりあえずあらすじ代わりに裏表紙の紹介を抜粋しておく。

己のいた証を、文字に刻む。それは、己との戦いでもある。〜中略〜雌伏の時を経て、文芸部として公式サークル化への道を歩みだした彼等の、これは第二の足跡である。

最初の部分の文句に伊藤計劃の生き方に通じるものを感じられるような気がするがたぶん気のせいである。なぜならこの部ができたのは一昨年だから。


この本の内容について語れることは多くない。部ができたばかりということと、部員数の少なさもあってか残念な書き手が何人か混じっているからである。書き手は全部で6人。その内、お金を払っても良いと思える人が2人。充分読めるレベルの人が2人。何とか読むに耐える人が1人。殴りたい奴が1人である。
ここではお金を払っても良いと思えた2人の作品を紹介したい。
1人目は松浦さんという方だ。作品名は「夢の間」。主人公である「私」が芸術家「ムットーニ」について語る一人称形式の掌編小説である。まだ文章は粗く、意味の取りづらい部分もあるが、そういった技術的に劣る面を補って余りある(もしかすると荒削りな部分があらからこその)魅力をこの作品は持っている。たった5頁の中に「私」の「ムットーニ」に対する感性が余す所無く詰め込まれており、幻想的でありながらリアルさを併せ持つこの作風は(題材は言うまでもないことだが)まさに美大生らしい作品だと言える。
2人目は増田さんという方だ。この方は3作の掌編小説を書いており、タイトルはそれぞれ「くじらの詩」、「ヴァルプルギスの夜」、「NOSENCE OF THE DEAD」である。この方の作品は文章力もまあ申し分なく、内容的にもどれも面白いのだが、今回は個人的に一番気に入った3つ目の作品、「NOSENCE OF THE DEAD」を紹介したい。
この小説はゾンビものである。哲学的な意味で。でもリアルゾンビがでたりする。ロメロ的な意味で。ゾンビと哲学的ゾンビを繋げるという駄洒落のような作品を大真面目な内容で書き、そのうえそれなりに小説としても面白く仕上げる作者の手腕には脱帽である。
この作者の1つ目の作品、くじらの歌を歌う青年と海還りと呼ばれる現象について書いた「くじらの詩」もなかなかに面白いので機会があったら読んでみていただきたい。今どこでこの本が手に入るのか知らないけど。


特殊な環境に特殊な感性を持った人たちが集まってできている武蔵野美術大学文芸部。この部のこれからの活動を、一読者として応援し見守っていきたい。