名大SF研記録ブログ

名古屋大学SF・ミステリ・幻想小説研究会

復活の地(小川一水)

復活の地 1 (ハヤカワ文庫 JA)

復活の地 1 (ハヤカワ文庫 JA)

SFセミナに参加する予定なので、いくらなんでも何も知らずに乗り込むのはいかがなものか、ということで小川一水です。最近読書に対する耐久値の落ちてきた自分がほぼ二日で3冊読破したことからみて、リーダビリティは非常に優秀です。内容は大雑把に言ってしまえばハザード、ディザスターもの。といっても主にかかれるのは悲劇に対する対処、対策のシュミレーションであり悲劇そのものにはあまりウェートは置かれていないのですが。ミステリ的な側面は弱めで、冷静に紙面を追っていけば災害の原因には気づくはず。アレを他国の差し金だとおもった自分は明らかに穿ちすぎ。そんな設定にしたら3冊で完結できるはずがないと後で思い至りました。にしても共通の目的、仮想敵ってのはやっぱ重要ですよね。イカ爆弾は人々を団結させる!とウォッチメンでも言っていたことですし(笑)ちょっと未読の人を置いてけぼりにしすぎなので(いつものことですが)軽く作品紹介をしておきましょう。

王紀440年、惑星統一を果たしたレンカ帝国は今まさに星間列強諸国に対峙しようとしていた。だが帝都トレンカを襲った大災厄は、一瞬にして国家中枢機能を破壊、市民数十万の生命を奪った。植民地総督府の官僚であったセイオは、亡き上司の遺志に従って緊急対策に奔走するが、帝都庁との軋轢、陸軍部隊の不気味な動向のなか、強力な復興組織の必要性を痛感する…。崩壊した国家の再生を描く壮大なる群像劇、全3巻。

amazon(「BOOK」データベースより)
世界設定は取り立ててうまく出来ているとは思いませんでしたが、さして違和感もなく受け入れられます。キャラクターはみんなカッコイイです。てか渋いですね。全体的にちょっといい人すぎ、有能すぎる感も否めませんが。途中でヒロインが短髪になってしまうのは非常に残念です。美人だったのがメルヘンチックな乙女になるなんて…まぁ個人的な趣味はおいといて、一番重要なのはこの作品が様々な人の思惑が絡み合いながら進行する群像劇だということです。それぞれの立場、思想によって軋轢が生じたり、和解しあったり、牽制しあったり、一方的にやられたり、ひとつの事件を多角的に捉えることで、単に遠くの事実ではない、身近な立体感を感じることが出来ます。事態は混迷を極め、一括りにはできない様相をみせるのです。注目するキャラクターによって、様々な物語性を発揮するのも群像劇の特徴の一つでしょう。そのせいで分量のわりにストーリーが遅々として進まないのはご愛嬌です。よく出来た作品だと思いますので、政治とかゴチャゴチャしたものが好きな人、単にかわいいだけの女性像、すぐデレる展開に飽きてきた人などにはおすすめです。(まつの)