名大SF研記録ブログ

名古屋大学SF・ミステリ・幻想小説研究会

13階段(高野和明)

13階段 (講談社文庫)

13階段 (講談社文庫)

第47回江戸川乱歩賞受賞作品。
傷害致死罪を犯し仮釈放された三上純一と刑務官の南郷正二がある記憶喪失の死刑確定囚の無実を晴らすため「階段」をヒントに奔走するミステリー。この作品は刑を執行する刑務官の立場から見た死刑制度の是非・冤罪・刑罰の目的・犯罪者の社会復帰、等々が孕んだ問題を物語の中でわかりやすく提示してくれている。扱う題材は重いがテンポはよく決して読みにくくない見事な作品。結末が予測できず一気に読み進めさせられてしまった。1つだけ不満があるとすれば、純一が殺した佐村恭介に終始全く同情ができなくて所々薄っぺらく感じてしまったのが残念。

今年の8月死刑場が初公開されたのは記憶に新しい。今もうすでに死刑制度の是非に明確な自論を持っている人も、まだ考えたことが無い人も、等しく読んでもらいたいと思った作品。作内の死刑執行描写の生々しさ、刑務官の葛藤、被害者関係者の憤りには何かしら感じるものがあると思う。(なk)