名大SF研記録ブログ

名古屋大学SF・ミステリ・幻想小説研究会

わたしが眠りにつく前に(SJ・ワトソン)

わたしが眠りにつく前に (ヴィレッジブックス)

わたしが眠りにつく前に (ヴィレッジブックス)

記憶障害を患い、一日の記憶を次の日に持ちこせないクリスティーン。彼女は夜眠るたびに自分の夫であるベンのことを忘れ、朝起きるたびベンから彼が自分の夫であると説明を受ける。医師に言われて書き溜めた自分の日誌を読み返す彼女だったが、読もうとして目に飛び込んできたのは「ベンを信じるな」という自分の筆跡だった……。

記憶喪失かつ前向性健忘を患った女性の一人称サスペンス。傑作といわれるのも納得。
本作のメインは「頼れるものが日誌しかないという状況」だ。夫の言うことはかすかに蘇る記憶と食い違い、医師もあてにはならない。その記憶すら、自分に都合のいいものとして構築されたものかもしれない――。唯一頼りになる日誌にしても、主人公というフィルタを通しているため、本当に真実を示しているかはわからない。その結果、数回あるどんでん返しの最後まで気を持たせる作りとなっている。夫は、そして医師は主人公にとってどんな人間なのだろうか。なぜ主人公は記憶を失ったのか。そこに夫はどう絡んでくるのか。すべてが明かされるまで緊張感が続き、非常に読み応えのあるものとなっている。




追記:本作原題の"Before I Go to Sleep"は、ロバート・フロストの詩"Stopping By Woods on a Snowy Evening"中のリフレイン"And miles to go before I sleep"を想起させる。詩の内容もちょっと本作を思わせるかもしれない――「記憶の森」などの表現もあるし。

追々記:登場人物の数が異様に少ないので、「海外物は人の名前が覚えにくくって」などいう人でも読めるんじゃないの

追々々記:ヴィレッジブックスつながりで『さらば愛しき鉤爪』もこれといっしょに部室に突っ込みました。こっちは人類社会に紛れて生活する恐竜人間たちのお話です。面白いよ。(gern)