名大SF研記録ブログ

名古屋大学SF・ミステリ・幻想小説研究会

斬首人の復讐(マイケル・スレイド)

斬首人の復讐 (文春文庫)

斬首人の復讐 (文春文庫)

ミステリでの最後のどんでん返しはえてしてちゃぶ台返しになぞらえられる。ならば、どんでん返しを何度も繰り返しラスト一行で「最後の一撃」を決めるマイケル・スレイドの作品では、きっと何卓ものちゃぶ台が音を立てて飛び交っているに違いない。本作では過去作の真犯人すら開かされるので、ちゃぶ台の数はさらに多くなることだろう(そのためシリーズ未読者には非推奨である)。
サイコ・キラー、科学捜査、プロファイリング、アクションなど多ジャンルを組み合わせたさまだけ見ると、確かに「カナダのジェフリー・ディーヴァー」という宣伝文句は正しいように思える。だがディーヴァーが結構お上品にまとまっているのに対し、スレイドの場合は自分たち(グループ作家だからね)の好きなものを詰め込まずにはいられないオタクの矜持のせいで、どうにかこうにか風呂敷だけ畳みました、という塩梅なのでちっとも似ているとは感じられない。
だがそれが良い。上記多ジャンルのエッセンス、流れを無視し出てくる大量の知識、警察組織内での複雑な人間関係。それらすべてのカオスなごった煮感こそ、マイケル・スレイドのエンターテインメントである。


なぜか章題がひどい。それぞれ「生首を狩ってみろ」「生首を斬ってみろ」「生首を喰ってみろ」。ちなみにシリーズ一つ前の作品『暗黒大陸の悪霊』で解説を書いているのは、『生首に聞いてみろ』の作者法月綸太郎である。(片桐)