名大SF研記録ブログ

名古屋大学SF・ミステリ・幻想小説研究会

人類皆殺し(トマス・ディッシュ)

人類皆殺し (ハヤカワ文庫)

人類皆殺し (ハヤカワ文庫)

植物SF第二弾。なんかよく分からない巨大植物が地球全体を覆いつくしちゃって、小さな村の村人たちがなんだかよく分からないなりに必死で生きていこうとするものの、結局極限状態での共同体の醜さのよーなものが噴出したりしてひどいことになる話。素晴らしく終末もの。凄まじい絶望感。
なんといっても邦題がよろしい。ふつう『人類皆殺し』とか言われたら「あー侵略ものSFね、なるほど」ってなるはず。その場合想像するのはトライポッドとかUFOとか第五の力とかであって、決して地味な植物などではないよね。でも、この本ではそういうけたたましい侵略方法が取られず(実際は二回ほど謎機械が出てくるけど)、ただ単に植物がどんどん広がってくだけ。人類は抵抗の意思すらそれに伝えることができず圧殺されていく。
つまり、コミュニケーションの不可能な相手というのが一番厄介なのである。拳で殴りあえば、強敵と書いてともと読むような存在になれるのかもしれない。頭脳階級の虫を巣から引っ張り出せば、虫の思考も分かるかもしれない(怖がっています!)。だけど意思伝達のできない相手にはそういった方法が取れない。燃やしても食っても抜本的な解決にはなりえないのだし。

ちなみに伏線の張り方が今まで読んだ本のなかでトップクラス。(片桐)