名大SF研記録ブログ

名古屋大学SF・ミステリ・幻想小説研究会

プレステージ

以前、紹介されていましたがもう一度。
人間は奇妙なもの不思議なものに関心を持つものです。しかし一旦明るみに出た謎は、文字通り白けてしまってその魅力を失ってしまいます。
この作品は様々なカラクリが溶け込んだまさにカオスといっていいでしょう。その舞台19世紀末のロンドン自体が光と闇、栄光と絶望を飲み込んだ混沌です。また、科学と魔術そして奇術が複雑に入り組みながら完全に分離していないのもこの時代の特徴かもしれません。その只中で描かれる二人の奇術師のドラマは人間の複雑な心理を奇術という道具を使って鮮やかに描き出しているといえるでしょう。
単純な時系列にならないシーンの繋ぎ方はやや難もあるかもしれませんが、映画自体が一つのカラクリとなっていて知恵の輪のような楽しさを感じさせます。美しい舞台や奇術の小道具などもよく再現されているのではないでしょうか。

そういえば奇術には「確認」「展開」「偉業」の三つの段階があるとされていました。そして、この三段階にある程度添って物語が進んでいるように見えましたが、果たしてラストが「偉業」といえるのか。むしろそれは未だ「展開」であって、この後にまださらにどんでん返しがあるのではないか、それを少し感じさせるラストだった気がします。いずれにしても全てが明るみに出れば白けるものです。あれは確かにあれでよかったのかなぁなどと。
何となく『ジキルとハイド』を思わせる作品でしたが、奇術好き謎解き好きな方には特にお薦めですね。(三笠)