名大SF研記録ブログ

名古屋大学SF・ミステリ・幻想小説研究会

運命のチェスボード(ルース・レンデル)

運命のチェスボード ウェクスフォード警部シリーズ 創元推理文庫

運命のチェスボード ウェクスフォード警部シリーズ 創元推理文庫

解説に載せられたレンデルのクリスティ評が面白い。

(クリスティには)素晴らしいプロットや素敵なアイデアがたくさんあるけど、どうも登場人物を創るとき深く考えたようではありませんね。自分の生きていた時代を深く研究していたとも思えない。(中略)彼女の考え出すプロットやどんでん返しが私にもできたら良いと思います。この点、彼女は断然優れています。ですが、人物設定や感情を表現する面では、彼女と私が互角であるとは思えません。彼女の描く登場人物の感情や人間関係は、現実に存在するものではありませんね。

「彼女と私が互角であるとは思えません」とは、つまり自分が彼女(アガサ・クリスティ)より優れているとほのめかしているのだ。わはは。


さて、ルース・レンデルである。光文社の『英米短編ミステリー名人選集』を読んだときはあまりピンとこなかったのだが、このクリスティ評を読んで膝を打った。得てして短編ではキャラクターよりも展開やどんでん返しのほうに目が行きがちである(『名人選集』でも、レジナルド・ヒルやヘンリー・スレッサー、ロバート・フィッシュといった派手な展開の作家が好きだった)。しかし、ルース・レンデルのようなタイプの作家はきっと長編のほうが向いているのだろう。

本作で描き出されるのは、「複雑な人間関係」のおかげで反対の意見を言い合わざるを得ない参考人たちの姿である。彼らの偽証に捜査は混迷を極めるが、ひとつの手がかりからパラパラと謎が解けていき、最後のわずか15ページで真相が明らかとなる。その様子は美しいといっても過言ではない。そして残りのページで解き明かしと後日談までやってのける。ラッパズイセンとガラス細工の隠喩が非常に巧みに使われており、思わず唸ってしまった。


日曜がお休みだったので代わりに書いた。(片桐)