- 作者: ハーバート・ヴァンサール,Herbert Van Thal,金井美子
- 出版社/メーカー: 論創社
- 発売日: 2008/05/01
- メディア: 単行本
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イギリスのホラーアンソロジーだそうで。面白かったのをいくつか
ロマン・ガリ「終わらない悪夢」
表題作。作者はリトアニア生まれのロシア系ユダヤ人。
収容所時代の悪夢から逃れられずに「イスラエルはナチスの罠」とかのたまう頭の残念な南米在住のユダヤ人の話。読んでみると実は収容所時代の看守が近くに潜伏していて、未だ恐怖からそいつに従っているというのがオチで、タイトルに納得。ドイツはいつまでちくちくとホロコーストネタでいじられるのか?大変ですね。
ベイジル・コパー「レンズの中の迷宮」
魔法使いが強欲な金貸しを閉鎖空間に閉じ込める話。閉鎖空間の中は夕暮れの中既に死んだはずの人々が腐乱した状態で動きまわっているという世界で、不思議で不気味な雰囲気がよく出ていました。きつい口調で借金を取り立てているかと思いきや、「言いすぎた・・・」としょんぼりする金貸しのシャーステッドさんのツンデレっぷりがたまりません。
アドービ・ジェイムズ「人形使い」
老いた人形使いデカーロと彼の人形リリスとの話。リリスのみに愛情を振りまき最後には、嫉妬をかって他の人形に二人とも殺されます。殺した側の庭師の男とその召使の女が「エデンの園」と呼ばれる箱庭から旅立つシーンはどことなく創世記ちっく。
ジョン・コリア「緑の想い」
この本の中では一番面白かったかと。単なる人食い植物の話かと思ったら、前半で主人公はあっさり捕獲されてしまって、あとはずっと蘭と一体化しなおかつ人間の精神を保ちながら送る日常が描かれています。やがて行方を捜しにきた甥が登場するけれど、ここでもまた期待を裏切って吸収されずに日頃から折り合いの悪かった、植物と化して動けない叔父のことをいびり倒すという素晴らしい展開を見せてくれます。一緒に吸収された従妹のジェインに蜂が受粉にやって来たり、根から養分を吸う感触を満喫したり一つ一つのアイデアもとても面白いと思いました。
エイブラハム・リドリー「私の小さなぼうや」
ぼうやを溺愛するコニ―が、自分たちの生活を邪魔するエビルストーンさんを殺すけれど、どう考えても坊やはただの人間ではない。実は、という話だけれど、これもやっぱり「実は」の部分が理解できなかった。理解力の無さが恨めしい。
リチャード・デイヴィス「入院患者」
施設動物園を持つ程に動物好きなボブ、その妻リンダとコンゴからやってきたゴリラとの不倫関係の話。ゴリラの子どもを妊娠するとかいう怖いよりも気持ち悪いが先行する作品。
普段あまり読むことのないジャンルなのでとても勉強になりました。遠まわしな表現や内面的な恐怖描写が目に付くような作品が多く、もろにスプラッタな作品はあまりないのが特徴かと。短編ごとの解説の中には「幻想ホラー」などの区分けもされていたけれど、いまひとつ定義がわからないので省略。(安保)