名大SF研記録ブログ

名古屋大学SF・ミステリ・幻想小説研究会

深淵のガランス (北森 鴻)

深淵のガランス (文春文庫)

深淵のガランス (文春文庫)

 銀座の花師を主人公とした物語。主人公は絵画修復師としての顔も持っており、本作はその絵画修復を通して話が進んでいく。ミステリに属する話であると思うが、殺人事件が起こるわけではない。なぜなら主人公は探偵ではないからである。本作で扱われる謎は絵画に秘められと謎である。もちろんそれだけでなくそれに絡む人々の思惑も大きなファクターである。どちらかというと雰囲気で読ませるタイプのミステリだと思うので、この作者の宇佐見陶子や蓮丈那智シリーズではなく香菜里屋シリーズに属する作品だと思います。残念ながら今年の一月に作者が亡くなってしまったのでこのシリーズは二作しか出ていません。この作者の特徴としてはおそらく著作のすべてが同じ世界を舞台にしていることが挙げられます。そのため他作品でも別のシリーズの主人公と思われる人物が出たりとつながりを持っています。正直この作者は飛びぬけて良いといえる作品はありません。作品全体にある空気感というものに私は惹かれました。この作者の作品がもう出ないことを思うと非常に残念である。(toshi)