名大SF研記録ブログ

名古屋大学SF・ミステリ・幻想小説研究会

禍 (小田雅久仁)

「俺はここにいると言ってるんだ。いないことになんかできねえよ」。恋人の百合子が失踪した。彼女が住むアパートを訪れた私は、〈隣人〉を名乗る男と遭遇する。そこで語られる、奇妙な話の数々。果たして、男が目撃した秘技〈耳もぐり〉とは、一体 (「耳もぐり」)。ほか、前作『残月記』で第43回吉川英治文学新人賞受賞&第43回SF大賞受賞を果たした著者による、恐怖と驚愕の到達点を見よ!

 目から、耳から、肌から、口から、髪から、恐怖が洪水のように襲ってくる。本作はどれも陰鬱で救いようのない話であるが、その中に何処か美しさも感じる類を見ない作品であり、私もこの『禍』に様々な感情を呼び起こされた。この作品に出会えたことは禍であるのか、それとも転じて福であるのか、それは次の読み手となる貴方次第..…(もち)