名大SF研記録ブログ

名古屋大学SF・ミステリ・幻想小説研究会

七月七日 (ケン・リュウ、藤井太洋ほか)

七夕の夜、ユアンは留学で中国を離れる親友ヂィンに会いに出かけた。別れを惜しむ二人のもとに、どこからともなくカササギの大群が現れ――東アジア全域にわたり伝えられている七夕伝説をはじめとし、中国の春節に絡んだ年獣伝説、不老不死の薬を求める徐福伝説、済州島に伝わる巨人伝説など、さまざまな伝説や神話からインスピレーションを得て書かれた十の物語。日中韓3カ国の著者による韓国発のオリジナル・アンソロジー

 伝説や神話を基に日中韓・三カ国の作家たちが物語を寄せたアンソロジー。ケン・リュウの名前に惹かれて手に取った。

 「七月七日」進学によって離れ離れになる女子中学生カップルが、自らの境遇を七夕伝説の彦星と織姫に重ね合わせる。するとどこからかカササギが現れ、二人を空高くに連れていく。ケン・リュウ曰く十代の読者に向けて書いた作品らしい。
 「年の物語」全ての人々が仮想空間で生きるようになった世界で、人々は時間の概念を忘れかけていた。無人となってしまった現実世界に現れた「新年の怪物」は、街でロボットと出会い、力を貸してほしいと頼まれる。
 「九十九の野獣が死んだら」実験室から脱走した能力者たちを追うバディハンターの話。『アスタチン』(『極めて私的な超能力』収録)を思い出した。韓国では人気のジャンルなのだろうか。
 「巨人少女」宇宙人に攫われた女の子たちが巨大化する話。正直そんなに。
 「徐福が去った宇宙で」星を覆う岩々から鉱物を採取している主人公が、宇宙人と出会ったことで生活が変わっていく。面白かったが、オチを含めて全体的に唐突。
 「海を流れる川の先」隣国からの侵攻を受けている島に住む男の子と、島の人々を説得して抵抗をやめさせようとしている僧の話。まぁ普通。そもそも短い話なので。
 「……やっちまった!」学会で出会った二人の科学者が、古来の伝説の真相を確かめに山に登る。何が「やっちまった」のかは是非読んで確かめてください。読んでなくても想像つくやつです。
 「不毛の故郷」宇宙人の目を通して人間のタフさを描いた作品。『Pineapple on pizza』というゲームを想起させる。
 「ソーシャル巫堂指数」データ分析家の姉を持つ男の周囲で起こるドタバタ劇。そこまで印象に残らず。
 「紅真国大別相伝」翼を持って生まれてきた男の子が、圧政を敷く王に反抗する話。伝説とSFをうまく融合した作品。(肇)