冷たい方程式―SFマガジン・ベスト1 (ハヤカワ文庫 SF 380 SFマガジン・ベスト 1)
- 作者: トム・ゴドウィン,伊藤典夫,浅倉久志
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1980/02
- メディア: 文庫
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収録されている短篇は、SFと聞いておおよそ想像されうるガジェット――宇宙船や異星人、タイムトラベルなど――が話の根幹をなしていて初めてSFを読む人間にも「SFってこういうものなんだ」と伝わりやすい。また、「接触汚染」なら外見と自己同一性の関わりについてとか、「冷たい方程式」なら目に見える命を奪う辛さとか、個人の思うところがはっきりする(分かれる)作品ばかりだったのでレビューとか書きやすいんじゃないかなーとも思った。書いてないけれども。
私は「祈り」以外全ての短篇に対して好感を持っているのだけれど、特に印象に残ってるのは「過去へ来た男」ですかね。普段ラノベばかり読んでいると特殊な境遇で物語に現れた(ここでは未来から過去へ来た)人間がなにか大きな事を成し遂げるのが当たり前のように思ってしまう。それなのにこの主人公はなにもできずに死んでいく。未来人の主人公がたどりついた先の生活で役に立てることは何もない。未来の道具の知識はあってもそれを作る材料も道具もない。本当に足手まといのまま他者に疎まれながら死んでいく。それが新鮮だった。
今から1000年以上前の人間が語り部をやっているので、価値観の違う人間からみると現代はこんなふうに見えるのかという面白さもある。作者はアメリカ人みたいだが、自国に対して「無慈悲な、恐ろしい王様の国」と言わせたり、皮肉めいた内容も本作を語る上でポイントになったりするのかな、とも思った。よく分からないけれども。
(葛宮)