名大SF研記録ブログ

名古屋大学SF・ミステリ・幻想小説研究会

チェコSF短編小説集 2 カレル・チャペック賞の作家たち(ヤロスラフ・オルシャ・jr. 、ズデニェク・ランパス 編)

ソ連ペレストロイカによる自由な風のもと、アシモフもディックも知らぬまま、熱い想いで書かれた独創性溢れる傑作13編。

 以前に出版された『チェコSF短編小説集』の続編。八〇年代のSF作品を中心に編纂された。
 「口径七・六二ミリの白杖」戦争を憎む盲人が、宇宙人に変わってしまった人間を殺すという任務を与えられ、葛藤しながらも任務をこなしていく。盲人を通して「盲目的」とは何かを考えさせられる。
 「ユー・ネヴァー・ギブ・ミー・ユア・マネー」テレビばかり見ている老人が、壊れたアンテナの代わりに熊手を刺したところ、過去のプラハの映像が映るようになった。ユーモア溢れる掌編。
 「微罪と罰」上位存在からの衝撃的なメッセージを市民に伝えまいと奔走する役所の職員たちの話。こちらも短いながらにまとまった作品。
 「……および次元喪失の刑に処す」政府に歯向かうと、次元を奪われ二次元の壁の中で生活しなければならなくなる。当時の全体主義的な世相を反映している、らしい。
 「あの頃、どう時間が誘うことになるか」過去に戻ることのできる箱を使う家族の話。あまり印象に残らず。
 「新星」文明の発達していない星に文学をもたらした男は、その星の住民から神のような扱いを受けた。しかし彼は、自らの発表する「文学」が全て地球の文明からの受け売りであるということに苦悩する。
 「落第した遠征隊」地球に着陸した宇宙人が地球を探索しようとするが……。地球上ではありふれたモノが宇宙人にとっては非常に害のあるというよくあるパターン。
 「発明家」ロボットたちは一年に一度、発明家を眠りから目覚めさせる。発明家が未だ地球上に残る理由とは。最後の別れのシーンが哀愁を誘う。
 「歌えなかったクロウタドリ」ある小説家から生物とも機械ともつかない奇妙な物体の修理を請け負った男のドタバタ劇。
 「バーサーの本をお買い求めください」好きな夢を見せることのできる本が大ヒット。しかし実は、本から人々の脳を監視し、反抗的な思想を持った人々を逮捕するための本だった。典型的ディストピア
 「エイヴォンの白鳥座」宇宙を流浪する劇団の一座が、ロボットのために演劇をすることになる。意外なオチに驚く。
 「原始人」ステーションの建設を巡って現地人と揉めた宇宙船のクルーたちは、未発達の技術しか持たない現地人たちを説得しようとする。
 「片肘だけの六ヶ月」罪の重さによって身体の一部が没収されるという法律が制定されたバングラデシュで、あるマフィアの下っ端が警察に捕まって肘から先の左腕を奪われてしまう。彼はそこで知り合った訳アリの老いた白人と出会い、肘が返却されるまでの六か月間を共に過ごすことになる。個人的に一番のお気に入り作。(肇)