名大SF研記録ブログ

名古屋大学SF・ミステリ・幻想小説研究会

冷たい方程式(トム・ゴドウィン他)

ハヤカワのSFマガジン・ベスト一巻目。このシリーズは二巻までしかないのだが。どういう事だ。
部室内での評価は低めだったが、捨て短編のない良作の揃ったアンソロジーである。表題作が有名であるということもあり、翻訳SFファンを名乗るなら必ず一度は読んでおきたい。

接触汚染」キャサリン・マクレイン

感染ものというのが適切なのだろうか。「定住する星を探している一団が、とある星に到着したが、そこには先住民がいた」という話。
この先住民、実は先に到着した地球人の一族で、この手の作品には珍しく非常に友好的なのだが、厄介な伝染病に感染しているのだ。どんでん返しがあるわけではないのだが、その奇妙さに少々呆気にとられてしまう面白い作品。

「大いなる祖先」F・L・ウォーレス

これがほぼ唯一いまいちだった。文章が硬い。
冒頭から「リボン人」がすごいインパクトを放つのだが、その割に存在感がない。別にリボン人じゃなくてもいいじゃん!私がリボン人に何かを期待してしまったがために失敗した感がある。
肝心の内容のほうだが、特筆すべき点はないかな。

「過去へ来た男」ポール・アンダースン

正確には「未来から来た男」である。だって視点が10世紀のアイルランドのおやじさんだからね。妙に新鮮。
過去の人間に比べて我々が優れているなどと、決して思ってはいけない。現にこのアメリカ人兵士は、一生懸命なのにもかかわらず何にも出来ないのだ。なんだかいじらしい。
だが役に立たなかったとしても、その努力をおやじさんに認められて何とか家庭を持ち、アイルランドに腰を落ち着けてくれるかと思いきや、現実は厳しい。まったく可哀そうな奴である。

「祈り」アルフレッド・ベスター

新人類ものである。最初から最後までひたすらに妙な話である。子供の稚拙な作文を真に受け、東奔西走する校長と不動産屋とその秘書、というのがそもそも滑稽ではないか。欲の深い大人には大抵悲しい結末が待っているが、正直なところ予想以上に可哀そうだった。時に、無邪気な子供ほど怖いものはないのだ。

「操作規則」ロバート・シェクリイ

あるエスパーが、そのテレキネシス能力を買われ宇宙飛行士として働くことになる。彼の扱いに困惑する同乗員を描いた作品。
そもそもテレキネシスで宇宙船を打ち上げようというのがちょっと笑ってしまう。しかも実際に打ち上がってしまう。超能力物も宇宙旅行物もSFでは良くあるが、その二つのジャンルをこのようにつなげた作品はかなり珍しいんじゃないだろうか。
途中までは舐め切った話だと思っていたが、落ちが上手かった。笑っていいのかどうか分かりづらいが、たぶん爆笑するべきだと思う。

「冷たい方程式」トム・ゴドウィン

超有名な作品。らしい。なんたってこの短編一つでwikiの項目になっているほどだ。なんでも「方程式もの」と呼ばれるSfジャンルを生み出した作品なのだそうである。
実際に読んだ感想では、そこまで面白い!ということはなかったのだが。多分先に方程式ものの代表作とされる「たった一つの冴えたやり方」を読んでしまっていたのが良くなかったか。あっちの方が洗練されているのは当然なのだから。
それとなんていうか、やっぱりみんな若い娘さんが大好きなんだなぁ、と思った。

「信念」 アイザック・アシモフ

アシモフなのに超能力ものでびっくりした。
主人公はまじめな物理学者。ある日突然空中浮遊ができるようになってしまう(なんという空を飛ぶ程度の能力)。
それでどうしたかって、彼は悩むのである。なぜならば彼は物理学者。こんな物理学に反したことはあってはならない。しかし現に私は宙に浮いている。
それで著名な科学者に手紙を出したり色々やって、最終的にはそいつをびっくりさせてやーいやーいとなる話。
なんか突然主人公が吹っ切れて、とても愉快です。


アンソロのレビューって難しい。(條電)