名大SF研記録ブログ

名古屋大学SF・ミステリ・幻想小説研究会

最果ての泥徒 (高丘哲次)

運命を、書き換えろ――。「ファンタジーノベル大賞」受賞後一作は、超飛躍 の 奇想×歴史改変×大冒険譚。
20世紀初頭、泥徒(ゴーレム)が産業として躍進する世界。欧州の小国で、泥徒創造主の名門家に育ったマヤは、若くして自らの泥徒スタルィを創りあげる。……しかしそれは、その後待ち受ける永き旅路の、ささいな幕開けに過ぎなかった。ある日、工房で父の亡骸が見つかり、そのうえ、一族に伝わる秘宝にして泥徒を〈完全なる被造物〉に至らしめるための手がかりである「原初の礎版」が、何者かに奪われたのだ。行方を眩ました三人の愛弟子を追走するマヤとスタルィ。やがて、世界を二分する戦火に身を投じることとなり――。

 新潮社さまからプルーフ本をいただいたので、発売前ではありますがレビューをしたいと思います。物語のネタバレをしていますので、未読の方はご注意ください。


 あらすじ:舞台は東欧の小国・レンカフ。泥徒(ゴーレム)を製造する尖筆師(リサシュ)の一族に生まれたマヤは、十二歳の誕生日に泥徒を一人で作り上げ、スタルィと名付ける。しかしその数日後、高名な尖筆師でもある父・イグナツが死んでいるのを発見する。しかも事件発覚後、父の弟子たち三人が全員忽然と姿を消してしまう。マヤは消えた弟子たちを追い求め、その生涯をかけて謎を追い続ける。なぜ父は殺されたのか、そして泥徒の秘密とは……。

 本作は歴史改変を基にした王道ファンタジーである。マヤとスタルィは、旅先で遭遇する様々な事件を通して、様々な人たちの協力を得ながら、ともに成長していく。
 物語中盤から、世界情勢は不穏な方向へと進む。逃亡中の弟子の一人がロシアで革命を起こし、泥徒を使って世界の分断を目論む。やがてレンカフは各国の思惑の間で板挟みとなってしまう。大人になったマヤはレンカフの代表として平和会議を開催するが、それはさらなる悲劇への始まりとなってしまった。終盤、怒り狂った民衆を止めるためにマヤがたった一人で人々に訴えかけるシーンには心を打たれるものがある。
 普段ファンタジーをあまり読まないので、プルーフ本の裏に書いてあるあらすじを最初に読んだときは固有名詞の多さに少し戸惑った。だが、十九世紀後半から二十世紀前半の歴史を基にしたストーリーで、構成も王道なので、読みにくさは全くないので安心。むしろ今読んでる『ニューロマンサー』なんて読みにくいったらありゃしない。

 『最果ての泥徒』は2023年9月29日(金)に新潮社さまから発売します。(肇)