名大SF研記録ブログ

名古屋大学SF・ミステリ・幻想小説研究会

紅雀(吉屋信子)

勝気な美少女・まゆみと幼い弟は、突然両親を亡くし、たまたま居合わせた男爵家の家庭教師に引き取られるが――。悲運に負けず、自らの手で人生を切り開くまゆみの姿に、日本中の乙女たちが熱狂した傑作!

 京都の丸善に行ったときに気になっていた本その3。勝気だが繊細な姉のまゆみと、誰からも可愛がられる弟の章一。天涯孤独となってしまった姉弟は、それを哀れんだ若い女家庭教師・純子が働いている辻男爵家に引き取られる。心優しい未亡人・由紀子、その息子でやや神経質な若き当主・珠彦、そして妹の綾乃たちとともに、姉弟は生活することとなる……。
 作中にはまゆみを快く思わない人たちも登場する。綾乃の同級生の成金娘・利栄子や辻家に仕える老女の槇乃である。まゆみはこの二人に心を傷つけられることが多く、ついには章一を残して家出をしてしまう。このあたりにまゆみの気の強さと不器用さがよく表れている。一方で、同じく綾乃の同級生の篤子のように、ミステリアスなまゆみを信奉するようなキャラクターも登場する。最初はまゆみを快く思っていなかった珠彦も、まゆみの音楽や乗馬の才能を見て段々と惹かれていく。
 まゆみの家出から物語は大きく動き出すのだが、以降は結構な駆け足&超展開で進んでいく。純子の初恋エピソードからまゆみと章一の両親の話まで盛りだくさんである。個人的には序盤のほうが好きだけれど、若干詰め込んだ感のある後半も嫌いではない。最後はまゆみが辻家に戻り、珠彦と婚約してハッピーエンドで終わる。
 僕が昔読んだ『花物語』と同じく少女小説だが、『花物語』が少女同士の淡い恋物語を描いたのに対して、こちらは正統派の成長物語である。(肇)