名大SF研記録ブログ

名古屋大学SF・ミステリ・幻想小説研究会

茶匠と探偵(アリエット・ド・ボダール)

探偵と元軍艦の宇宙船がコンビを組み深宇宙(ディープ・スペーシズ)での事件を解決する表題作の他、異文化に適応しようとした女性が偽りの自分に飲み込まれる「包嚢」、宇宙船を身籠った女性と船の設計士の交流を描く「船を造る者たち」、少女がおとぎ話の真実を知る「竜が太陽から飛びだす時」。“アジアの宇宙”であるシュヤ宇宙を舞台に紡ぐ全9篇。現代SFの最前線に立つ作家、日本初の短篇集。
星々は語らない。淡く見えるとも強く輝く――

 京都の丸善に行ったときに気になっていた本その2。世界観は共通しているが舞台が異なる短編が集まった本である。例えば「船の魂が人間と同じように産まれる」という設定は全編を通じて出てくるのだが、初見では理解するのに時間がかかるだろう。最初は世界観もストーリーも独特でなかなか読み進められなかったが、だんだんと面白さが分かってきた、気がする。今回は最後の短編かつ表題作でもある『茶匠と探偵』を紹介する。
 過去のトラウマから深宇宙を恐れている船・影子(この宇宙では船の魂は人から産まれる)のもとに、謎の女探偵・竜珠が現れる。彼女に深宇宙への航海を頼まれた影子はしぶしぶそれを承諾するが、深宇宙で不自然な死体を発見する。果たして事件の真相は……。
 なにより読みやすい(相対的)。一応ミステリとしては一番初めの短編『蝶々、黎明に墜ちて』もあるが、個人的にはこちらの方が好み。ただ、どちらもトリック系の話ではないので注意。(肇)