名大SF研記録ブログ

名古屋大学SF・ミステリ・幻想小説研究会

ガーンズバック変換 (陸秋槎)

「ネット・スマホ依存症対策条例が施行された近未来の香川県。全未成年者たちは例外なく、液晶画面を通じたネットへの視覚的なアクセスを遮断する特殊眼鏡「ガーンズバックⅤ」を着用することを義務付けられていた。そんな香川から、女子高生の美優が大阪へやってきた目的とは――? 大阪観光サイバーパンクの表題作をはじめ、創作と道徳をめぐる脳科学SF「サンクチュアリ」、中世の南仏で貴族少女と吟遊詩人の出逢いを描くボルヘスカルヴィーノ風味のファンタジー「物語の歌い手」、スマホゲーム開発をめぐる知的遊戯「開かれた世界(オープンワールド)から有限宇宙へ」、さらに百合SFアンソロジーや『異常論文』といった日本の書籍のために書き下ろされた傑作など、全8篇を収録。

 表紙、デカくない?
 八つの短編が収録されているのだが、「ここで終わるの?」と感じる作品が多め。特に「サンクチュアリ」と「開かれた世界から有限宇宙へ」の二作。まあこれは『文学少女対数学少女』でも思ったことなので、作者の特徴というべきか。
 陸秋槎は偽史の書き方が非常にうまい。二十世紀初頭の架空のオーストリア作家の生涯を描いた「ハインリヒ・バナールの文学的肖像」は今作の中でも特にイチオシの作品である。『時のきざはし』で昔読んだことがあったけど。
 最後の二つはガッツリ百合なので、百合好きな方も是非読んでみては。というか陸秋槎イコール百合という認識だったので、「開かれた世界から有限宇宙へ」の語り手をずっと女性だと思っていた(苦笑)。 (肇)