名大SF研記録ブログ

名古屋大学SF・ミステリ・幻想小説研究会

スキャナー・ダークリー

こないだ茜娘という芋焼酎を買ったのでちびちびと飲んでいます。赤芋仕立てで瓶も赤い。当然中身も赤いんだろうなーと思っていたら特にそんなことはありませんでした。
さて今日紹介するのは『スキャナー・ダークリー』。フィリップ・K・ディックの同名小説*1の映画化ですね。

スキャナー・ダークリー [DVD]

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まーディック作品の映画化って大抵は原作好きにとって無残な結果に終わることが多いわけで。ペイチェックマイノリティ・リポート?NEXT?ガジェットとストーリーの骨組みの一部だけ抜き出して作られた、ディックの思弁性やダメ人間っぽさの欠片もない駄作のバーゲンセールですね。トータル・リコールは大好きですけど。
翻ってこれ『スキャナー・ダークリー』はほぼ原作そのものの映画化であり、ディック作品の映画として異色といえるでしょう。囮として自らもヤク中になる秘密麻薬捜査官フレッド/ボブ・アークターとそのヤク中仲間のダメ人間ぶりや、ボブ・アークター/自分を見張れと命じられた彼のアイデンティティがドラッグの影響もあり次第に変質していくさま。そして、絶望の中に一抹の爽やかさが見られるラスト。スタッフロール直前には、ディックの後書き――彼自身がドラッグで失った友人たちへの追悼文――までが引用されています。


惜しむらくは、原作の忠実な映画化であるがゆえに、原作を読んでいないとさっぱり意味の分からないところでしょう。実写とアニメの融合した映像なんか、いかにもディックっぽくていいとは思うけどね。
(片桐)

*1:邦訳は2種、山形浩生訳・東京創元社版の『暗闇のスキャナー』と浅倉久志訳・早川書房版の『スキャナー・ダークリー