名大SF研記録ブログ

名古屋大学SF・ミステリ・幻想小説研究会

WANTED (Mark Millar, JG Jones, Paul Mounts)

Wanted

Wanted

ひょっとしたらこの世界は水槽にプカプカ浮かんだ脳髄が見ている幻覚かもしれないし、実は五分前に創造されたものなのかもしれない。それらは誰にも否定することのできない仮説なのだ。この作品にも同じような「誰にも否定できない真実」が登場し、読者の現実を揺るがす。


誰にも否定することのできない真実
1986年スーパーヒーローたちとスーパーヴィランたちの間で大戦争が起こり、その結果ヒーローたちは全滅した。そして勝利を収めた悪役たちは自分たちの能力を用いて、ヒーローやヴィランが実際に存在した痕跡を完全に消し去った。偽りの平安の影で、自分たちの欲望を安全に満たすため。


この作品の中で、冴えないサラリーマンのウェズレー・ギブソンは真実を知る。つまり、スーパーヒーローたちがかつて実在していたこと。悪役たちは現在も活動していて、自分たちの組織を作り隠れて世界を思いのままにしていること。失踪した自分の父は伝説的な殺し屋/ヴィランの"The Killer"だったこと。父が死んだ今、自分が"The Killer"を継がなければならないこと。などなど。

"WANTED"はつまりそういうコミックで、メタ表現*1にネタ表現、4文字言葉が乱舞するどうしようもない作品である。が、そのどうしようもなさ、暴力表現とか汚物表現(なんてったって666人の人殺しの大便から作られた合成人間{名前はSHIT-HEAD。まんまだ}なんてクソなキャラが出てるぐらい)とかも含め大人向けコミックの極北であり一種の到達点であるなあと思う。主人公自体ヒーローではなくて「悪いやつともっと悪いやつが戦う」タイプの話だし*2


今夏公開予定の映画『ウォンテッド』の原作でもあるけど、予告編見た感じでは全くの別物なはず。ヒーローとヴィラン云々、メタ表現は間違いなくカットされてただのオサレなガンアクションになってる。まあそれはそれでいいんじゃないか、大便から生まれた合成人間とかあまり映画館では見たくない代物だし、できればビデオスルーでも遠慮願いたいし。



スト2ページ主人公の独白がかっこいいので抄訳して載せようかなーと思ったけど眠いので寝ます。あと第二章、ダメ男だった主人公が覚醒してファッキューファッキュー言うとことか好きですね。
(片桐)

*1:1986年ってアメコミ史的に一種のエポックな年であるわけで、そこを文字通りの歴史の転換点としている点で当たり前に作為的だなという

*2:つーか"The Darkness"も読んだけどTOP COWこんなんばっかりじゃね?