名大SF研記録ブログ

名古屋大学SF・ミステリ・幻想小説研究会

暗くて静かでロックな娘(平山夢明)

暗くて静かでロックな娘

暗くて静かでロックな娘

 これはいいものだ。
 エログロナンセンス満載で、最低に下品で、登場人物はクソッタレばかりでとても気軽に人に勧められる本ではないけれども好きな人にはたまらないでしょうね。

 平山夢明の短篇集の一つ『他人事』に収録されているような救いのない、胸糞悪い(褒め言葉)短篇たちに比べると本書に収録されている短篇はまだ救いがある。確かに読んでいてちょっと心があたたまる。わかりやすいのは「反吐が出るよなお前だけれど……」あたりですか。舞台のラーメン屋(どう見てもモデルが二郎)の脂ぎってネバつく淀んだ雰囲気と、読了感の爽やかさが対照的で非常に素晴らしい。こういうジジイとババアが仲悪そうで、実のところなんだかんだいい関係なのがたまらないですね。
 
 ……と、ハートフルな話を連続で読ませて「なんだ、この短篇集はこういう方向なのか」と読者を油断させた所で「おばけの子」の最高に胸糞悪い、微塵も救いのない、最低な結末がガツンと胸に響く。「おばけの子」単体では胸糞悪くとも数日たてば忘れてしまうような内容を、事前に救いのある話を読ませることで読者の心にトラウマのカタチで否が応にも刻み込んでくる。たまりませんね。

 気になるのは内容はもちろんのこと、装丁も帯も素敵仕様で満足度が非常に高いのになんで目次がこんなに残念なのか。いかにもテキトーに放射状に組んでみました、みたいなのはちょっと萎える。これなら何のひねりもなく縦書で並べてもらったほうが素敵だわ、わ。
(葛宮)