名大SF研記録ブログ

名古屋大学SF・ミステリ・幻想小説研究会

ミッドナイト・ミートトレイン(クライヴ・バーカー)

ミッドナイト・ミートトレイン 真夜中の人肉列車 血の本(1) (血の本) (集英社文庫)

ミッドナイト・ミートトレイン 真夜中の人肉列車 血の本(1) (血の本) (集英社文庫)

なんだこの表紙。
スプラッタ・ホラーの書き手として有名なクライヴ・バーカー。本書は彼の初期短編集『血の本』6分冊の第1巻である(ちなみに表紙は6冊ともこんなの)。この『血の本』とは何かというと、

誰もが血の本を持っている。
どこであれそれを開けば、われわれは赤く染まる。

とはじめにあるように、人体、それもグロエグい臓器の入れ物としてのそれを暗喩するものだろう。


そしてこの6冊は、その『血の本』がさまざまに開かれていくさまを読者に見せ付ける。2巻収録の「腐肉の晩餐」では

恐怖ほど愉しいものはない。 それが他人の身に降りかかったものである限り。

なんて言葉が出てくるが、そのとおり。我々はときに眉をひそめながら、そしてときにげらげら笑いながらたとえば主人公たちが恐怖に逃げ惑うさまを傍観することができる。
しかし決してそれだけではない。これらの作品群は気付かせる、多くの人が気色悪さに顔を背けるであろう血やモツが、その実我々にもまた詰まっていることを。我々もまた『血の本』であることを(クライブ・バーカーの作品が一見即物的な恐怖を描きながらもどこか気高さがあるというのは、恐らくここがポイントだ。日本人作家でいうなら平山夢明牧野修のように)。


本書に載せられているのは「真夜中の人肉列車」「下級悪魔とジャック」「豚の血のブルース」「セックスと死と星あかり」「丘に、町が」の5篇である。
さきにバーカーをスプラッタ・ホラーの書き手と述べたが、純粋にそう呼べるのはこのなかでは「真夜中の人肉列車」だけかもしれない。深夜の列車に出没する殺人鬼と平凡な男との戦いを描いたものだが、無機的な空間に突如死体が出現し異化されるさまは、恐怖というよりむしろ幻想的なものすら感じられる。
コミカルさがあるのが「下級悪魔とジャック」「セックスと死と星あかり」だ。前者では悪魔との(どこかドタバタした)戦いが描かれ、後者では幽霊劇場と、オーソドックスなテーマであるがなかなか読みやすい。
残りの2編――「豚の血のブルース」「丘に、町が」は、なかなか評価が難しい。恐怖の表現の軸をリアリズムにおくか、それとも想像力におくかの違いで、書かれていることは実際共通しているような気もする。とりあえず一番好きなのがこの2つ。


というわけで、クライヴ・バーカーが実のところゴア表現だけではないことが分かったところでもう眠いので寝る。時間ができたらほかの巻も感想書くかもだ。(片桐)