名大SF研記録ブログ

名古屋大学SF・ミステリ・幻想小説研究会

「姑獲鳥の夏」(京極夏彦)

文庫版 姑獲鳥の夏 (講談社文庫)

文庫版 姑獲鳥の夏 (講談社文庫)

京極夏彦という名前は前から聞いたことはあったけど、読んだことはなかったので読みました。

戦後復興後の日本、カリスト雑誌にも執筆したりして生計を立てている小説家の関口はある噂を耳にする。久遠寺医院の娘は二十箇月もの間妊娠していて、その夫は密室から失踪したらしい。関口は古本屋を営む友人、知識人の京極堂に意見を求めに行くが、その失踪した夫は学生時代の先輩の藤牧であることを知らされる。関口は京極堂の助言により同先輩である探偵の榎木津に会い、ともに久遠寺医院に行くことになるのだが、事態は想像を超えていくのであった。

この本、とにかく京極堂の話が面白かった。妖怪や民間伝承の誕生の話や、時間は物質に記憶(魂)として刻まれているという話など、実に理論的で興味深かった。ただこの本、とても面白いのだがミステリーとしては“そんなのありかよ”って感じで、伏線は張られているが常識に囚われていてはまずわからない。だから僕は普通のミステリーが読みたい人よりは、そんなに知らないけど民間伝承に興味があるとか、魂や意識についての少し変わった考え方を知りたいとかいう人にとくにおすすめしたい。
(鍋)