名大SF研記録ブログ

名古屋大学SF・ミステリ・幻想小説研究会

『俺が生きる意味 1』(赤月カケヤ)

俺が生きる意味〈1〉放課後のストラグル (ガガガ文庫)

俺が生きる意味〈1〉放課後のストラグル (ガガガ文庫)

 赤月カケヤが帰ってきた。
 デビュー作『キミとは致命的なズレがある』(以下キミズレ)刊行からはや二年ですよ。ツイッターで自分のこと遅漏作家と自嘲して遊んでる暇があるなら早く原稿カケヤとおもいつつ待ちに待った二年ですよ。でも二ヶ月連続刊行だからすべて許せた。なんか三巻(あるのかしらないけど/なければ次作)がまた二年出ない展開が容易に想像できるけど!


 読んださ。
 ただ、もしこれだけ期待した新刊が最近のガガガ文庫の露骨なエロ描写推しの影響を受けて「女子の制服だけ溶かすスライム」を全面に押し出してきた時正気を保てる自信がなかったから先にツインテール三巻読んだけども。結果から言えばそんな心配は杞憂でちゃんと人が死んでた。これ以上喜ぶことが他にあるだろうか(/たくさんある)。

 ばっさばっさと死んでいく生徒たちを見ながら赤月カケヤは人を殺すのに動機を求めないんだなーと思った。前作のキミズレはサイコパスのxの子が人を殺すだけ殺して、それは門をくぐったからと理にかなってるんだかないんだかな理由付けをしていたけども、本作においてはもっと極端で人を殺すのは文字通り化け物で人間の理屈なんて通用しない。捕食であったり戯れであったり移動中の巻き込まれであったり、種族が違うのに殺人に同じ価値観を持ってるわけないな、なんて。ただ今後生き残った生徒同士での命を賭けた衝突があった時、人を殺す(/殺さない)葛藤の描写は今までの作風もあってより輝くものになるだろうなという実感はある。化け物に襲われている最中助けたくても助けられず失われた命は今巻で十分見たので続刊ではソリッドシチュエーション下で生き残るために誰を間引くのか、誰かに生きてもらうためにどこまで身を削れるか、延々悩みながら、犠牲にした後も鬱陶しいくらい後悔しながら生きていってほしい。

 一巻の時点では続刊で語られるべき伏線がいくつもあって文句なしにおすすめとは言えない。正直状況設定はありふれたパニックホラーだし。ただこんな次巻への引きを用意されたら次巻買わない訳にはいかないじゃないですか! いやこんな引きじゃなくても買うけど! 『俺が生きる意味』の「俺」は誰のことなんでしょうね! キミズレの「キミ」は表紙に描いてあったけど……まさかね。
 まあヒロインをお姫様抱っこで助ける際の一節――

それでも背負ったほうが、いくらか楽なのはわかっている。けれどもできなかった。斗羽の背中にはまだ、憎しみの表情を刻んで死んでいった、あの女子生徒の怨念が重くのしかかったままだ。

これを読んだ時続刊がどんな展開であろうと最後まで読み切る決心がついたのでどんな展開でもばっちこいですよ!

 そんな本書を生協で注文しても発売日に店舗に届いてなくて「おい、まじでどうなってるんだふざけるなよ」と思いながらも、店員の眼が完全に殺し屋のそれで(個人の意見です)文句を言うわけにもいかずただ枕を濡らした日々はすべて忘れよう。

 なんにせよ帰ってきてくれて嬉しいです、赤月先生。
(くずみや)