名大SF研記録ブログ

名古屋大学SF・ミステリ・幻想小説研究会

魔女の騎士(ニノ瀬泰徳)

 生徒会の一存が売り切れでファッキン。正直まったく期待してませんが(ネットでの評判良いし)、ラノベに強い名大SF研としてはおさえておかないとダメに違いない。

 というわけでこれ。

魔女の騎士―ヘクセン=リッター (チャンピオンREDコミックス)

魔女の騎士―ヘクセン=リッター (チャンピオンREDコミックス)

 チャンピオンREDコミックヴァルキリーに勝っている、ということを実感させてくれる一冊。デビュー作かつ短期連載で、1冊だけ刊行されている。
 あらすじ解説。女装少年がロリババア(最強)にいじめられつつ触手で絶頂。あとなんかよくわかんないけど実は主人公も最強。控えめに言ってこんな感じ。中二病全開っていうか、中二病そのもの。でもチャンピオンREDは成年誌ではないので、もちろん18禁じゃないよ。
「だって少年誌なの?」
 違うよ。全然ちがうよ。
「でもギリギリ少年誌なんでしょ?」
 全然違うよ。全く少年じゃないよ。
「へー、じゃあ、REDと少年誌の違いは何なの?」
 じゃあ、簡単に説明してあげるよ。まず、少年誌は乳首券が使えません。
 そもそも乳首が存在していないか、トーンなし、煙や湯気で隠れてたりするんだ。
 そのようなものを、発行コードの限界に挑戦していくところから乳首券という名前がついたんだ。
 これが少年誌。
 でもREDというのは編集に限界が存在しないんだ。存在しない自主規制を作者が自重していくスタンスなんだよ。
「じゃあ、魔女の騎士はどれだけ出版コードに自重しているの?」
 童貞的に。この世に魔法使いはないと言われているが童貞を目指したい。これだけは。
「REDのいいところは何?」
 REDはまず一番の売りは変態。いいところは性癖を隠さなくてよくて、一般層・腐女子層を狙わなくてよくてだけどぬふぅはできる。羞恥心から道徳までの常識を編集が取り除いてくれるんだ。だから、作者としては煩悩1本で作品がつくれる。僕はそこにほれた。REDのいいところもそこだ!


 ありがとうマークパンサー。というわけでチャンピオンREDは少年誌ではなく童貞誌であるということがよく分かったところで魔女の騎士についてですが、これまた童貞力が強い。強いんですが、むしろ強すぎて一周して逆にこれは爽快なんじゃないかという。
 良く言われる事に、デビュー作でつぶれる作家は10年来暖めてきたデビュー作を2作目で越える事ができなかった。みたいなものがありますが、魔女の騎士はまさにそれ。10年分だか20年分だか、あるいはそれ以上かもしれないドスピンクい妄想かつ怨念が、全コマに叩き付けられて押し込められている。絵柄もやたら緻密で、岡田芽武とかヒラコーと同じ系統の、スイッチが入ったら余白全部埋めるまで止まらない感じがすごくする。その緻密な絵柄は、全力全開な内容とマッチしており、相乗効果で作者の本気オーラの出力を倍増している。その圧倒的な気合いが、魔女の騎士をただ痛いだけの中二作品と呼ぶのをためらわせている大事な要素である。というか、痛くない。痛くないってば。妙なテレだとかセルフツッコミが入り込む余地のない密度と勢いがある。
 もちろん、気合いさえあれば面白い漫画がかけるわけではない。でもしかしこの作者の気合いの方向は実に正しい。まず第一に、触手はいにしえから続くメジャーなジャンルである。そして、女装少年はここ数年流行のトップ集団に入っている。さらにファンタジーは中二心にクリーンヒットしやすい。重ねて言うが、REDの読者層において、である。それをふまえた上で、この作者は、自分がそれらのジャンルの何が好きなのかを熟知しすぎている。そしてそれをぶちまける方法もまた良く手になじんでいる。専門用語で言うところの、前者が妄想力で後者がマンガ力である。
 マンガ力が一朝一夕で身に付くモノではないことは当然のことだ。複雑なコマ割り、難しいアングルにも違和感は全くないし、確かに崩れた絵柄だが、崩れ方が全て通して統一されているので、これは崩れてるわけではなくてこういう絵柄だと言えよう。そしてまた、妄想力も一朝一夕で身に付くモノではない。もし簡単に身に付くならこの世にエロ本は存在しない。しかるにエロ本は存在する。故に妄想力は訓練で高めるモノである。

 この作者はマンガ的な意味でも充分な所に到達しているし、変態的な意味では達人の域と言えるような遙かな高みにある。つまりRED的な意味、すなわちマンガ+変態の世界でその実力はいかんなく発揮された結果こんなものができてしまった。
 さらに来月のREDにまた参戦するらしい。最初に、この作者の次回作に期待できない、みたいなことを書いてしまったがそんな意図はない。彼がン十年暖めてきたのは童貞力や変態力であって作品そのものじゃない(と思う)。そして次号のお題は学園モノ・・・ぜひ、チャンピオンREDハヤテのごとくと呼ばれるような怪作を期待したいところだ。


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