名大SF研記録ブログ

名古屋大学SF・ミステリ・幻想小説研究会

怪奇小説傑作集2

怪奇小説傑作集 2 (創元推理文庫 501-2)

怪奇小説傑作集 2 (創元推理文庫 501-2)

創元推理文庫から出ている怪奇小説傑作集から二巻をお届けします。

何故五本あるなかで二巻かといえば、これが一番SF色が強いから。19世紀後半の怪奇小説といえば、幻想と科学が絶妙に入り混じった作品が多いのだけれど、本作はそれよりさらに時代を下った第一次大戦も終わった頃の作品がメイン。とりあえず、本作品で言えることは二つ。科学らしい科学が出てきたということと、怪異がより日常的になったということ。

まずSFということでは「卵形の水晶球」。作者のH・G・ウェルズは「タイムマシン」で有名。前世紀のいわゆる「科学」はちょっと強引かもしれないが錬金術的な趣があると思う。どういうことかというと、その「科学」がある種の思想や哲学などを内包していて、根拠もどこからわいてきたのかわからないものが多いということ。それに対して、この作品は設定はぶっ飛んでいるんだけれど、登場人物たちが怪異にあたる姿勢は観察と経験知によっていて、その点で現代の科学により近い形になっていると思う。

一方で、古典的な怪奇小説は、誰それが言ったことをここに伝えるとか、ある日誌に次のような記述が…とか、これから何か恐ろしいことが起きますよと前置きしてから始まるものが多い。んで、話もそれに見合う形でやたらと壮大で人生やら思想やらといったものが全面に出てくる…ものが多いと思う。

しかし、さらに時代の下った本作品集はそれとは少し趣が違う作品もある。少し前に流行った『リング』や『着信アリ』を引き合いに出すのはどうかと思うけど、日常が急に怪異へと変わる作品がこれだと思う。そこが逆にリアルっていうか、身近で恐怖を誘う。育てていた植物にある日突然飲み込まれ、植物の一部と化してしまう「みどりの想い」は、植物的な気持ちをやってみせてくれて面白い。「住宅問題」もありふれた賃貸家にぽんっと小人を放り込むことで巻き起こる騒動をうまく描いており、落ちもよい。

そして、「スレドニ・ヴァシュタール」。いや、傑作だと思うよ。これだけ短い中にそして無理な設定もとくにせず、グロテスクで人間臭い物語を描いている。ちょっとした異変、しかし、たんたんとした日常。そこが逆にある種の恐怖を演出していると思う。まぁ、結局怖いのは人間っていうこと…かなw

他にも傑作だと思う作品はあるけれど、だらだら長くなりそうなので。ここに上げた作品は必ずしもこの短編集でしか読めないということはないけれど、本作はそれぞれ味の違った作品を小皿にとって賞味させてくれる意味において中々おつなのではないでしょうか。おすすめです。(三笠)