名大SF研記録ブログ

名古屋大学SF・ミステリ・幻想小説研究会

創世記機械(ジェイムズ・P・ホーガン)

創世記機械 (創元SF文庫)

創世記機械 (創元SF文庫)

自分の中ではホーガン三冊目。以前読んだのは「星を継ぐもの」「量子宇宙干渉機」だが、この作品もそれらと同様、実にホーガンらしいともいえるハードSFである。
なんといっても、作中で一つの統一理論を作り上げてしまっているところに驚かされる。「現実世界がどうなっているかはまだ誰にも分からないけれど、この作品の中の世界では、物理学はこういう理論で統一されていますよ」ということをやっているのだ。なかなか思いつけることでもないし、思いついたとしても小説に出来ないようなスケールのでかい試みを、巧みに形にしている。その「僕の考えた統一理論」というのを、きちんと分かり易く説明できている点も見事。もっとも残念ながらそれは、現実世界で組み立てられつつある理論に比べ極めて単純で、視覚的に考えやすいものではあるのだけれども。そこはそれこそ、SFだから、ということで。
そして根底に設置されたその理論の上で、幾つかの理論と考察と物語が展開してゆく。それらは実にホーガンらしく論理的飛躍をなす。ただの場の理論が、最終的に世界を破滅させる恐怖の兵器を作り上げるのだから面白い。理論の飛躍に伴って物語も飛躍していくので、終盤なんて主人公はほとんど神の扱いである。「創世記機械」っていうネーミングからもそのことが分かるだろう。そのあまりのぶっ飛び方に「どうしてこうなった」とか考えてたら、本当に主人公の妻が「どうしてこうなってしまったのかしら…」とか言い出したので思わず吹き出してしまった。
一連の理論を多少混乱しつつもそこまで違和感無く受け入れられるように書きあげ、なおかつ作品を面白い物にする。流石ホーガンはハードSFの巨匠と言われるだけあると、改めて感じさせられた。
(條電)