名大SF研記録ブログ

名古屋大学SF・ミステリ・幻想小説研究会

殺竜事件

殺竜事件 (講談社ノベルス)

殺竜事件 (講談社ノベルス)

読んで字のごとく「竜」が殺害される事件のお話。
ブギーポップ」シリーズの上遠野浩平がファンタジーとミステリの融合に挑んだ作品であるらしい。
正直、これを買った当時は金子一馬の挿絵が目当てで内容には全く興味がなかった(ついでに言うと私はファンタジーもののラノベが反吐が出るほど嫌いだった)のだけれど、良い意味で裏切られた形になった。
SF同様ファンタジーでミステリをやろうとすると、よっぽど設定を詰めないと、ストーリーに矛盾や破綻が生じてしまう。
たとえ密室殺人が起きたとしても、誰もが便利に魔法を使える世界では全く意味を成さない。
規制が必要なのだ。設定に。
そこで本作。
殺されたのは「竜」。
その鱗は堅く人の力では傷を付けることかなわず、その魔力は強大で人の魔法では決して殺すことはできない。
まさに不死身。誰もが殺せるわけじゃないので前述の問題はクリアしている。
というか誰にも殺せない。それが殺される。そのうえそこに国家間の思惑が交じって戦争が起きかけたもんだから、なんとかせねばなるまいと主人公たちががんばるのがこのお話。
使われたトリックは単純ではあるが、なるほどそれ以外にはないなと納得させられる出来。
真相が判明するまでの過程もなかなか良い出来だった。胡散臭い仮面の男とそのお供の波乱と陰謀の旅はミステリとは関係なしに楽しめる。
普通のミステリに飽きてきた人におすすめの一冊。
(柴田)