名大SF研記録ブログ

名古屋大学SF・ミステリ・幻想小説研究会

粘膜兄弟(飴村 行)

粘膜兄弟 (角川ホラー文庫)

粘膜兄弟 (角川ホラー文庫)

 粘膜シリーズ三作目。今回の主人公は麿太吉・矢太吉の双子の兄弟。この二人は前二作の主人公と比べるとまだ普通の人っぽい。キレると何をやらかすかわからないという点では異常性があるが、まだマシ。それと準主役として豚しか愛せない変態のヘモやん、ヒロインとしてゆず子が登場する。ヘモやんはフグリ豚という特殊な豚とヤッてばかりの変態だが、かなりの活躍っぷり。特に彼の作ったフグリ汁は作品中で大いに活躍する。
 時代設定は相も変わらず大戦時の日本。主人公たちの住む町は前作の隣町であり、前作との強い関連性がある。今作は前二作との関連性が強く、一作目のキチタロウや二作目の登場人物の名前が出たりしている。今作の主眼は二人の兄弟が一人の女を巡って争うところだと思う。第一章でその争いに決着がつくにはつくが、その処理のせいで後々に影響が出てくる。今作もまたナムール出兵がある。屑な上官とか独自の生物など前作を踏襲しているが、上官の屑っぷりはランクアップしている。今作でもう一つ重要なのは謎の「黒助」だろう。まったく謎の生物(?)であり何度も登場する。実はオチに深く関わるものであるので、これが何なのかは読んで確かめよう。
 粘膜シリーズは文章力というか構成力はシリーズを追うごとにパワーアップしている感はあるが、それに反比例してグロテスクさは低下しているように思える。その点では残念だが、シリーズを追うごとに面白くなっていっているためそこまで気になるほどのことではない。