名大SF研記録ブログ

名古屋大学SF・ミステリ・幻想小説研究会

粘膜蜥蜴(飴村 行)

粘膜蜥蜴 (角川ホラー文庫)

粘膜蜥蜴 (角川ホラー文庫)

 前作『粘膜人間』に続く粘膜シリーズ第二弾。二作目とはいっても前作との直接的な繋がりはないので、安心して読めます。おそらく戦時中の日本と思われる時代設定と異形の者との共存という世界設定は前作と同じになっています。また今作、前作ともに暴君的な小学生が出てくることも共通点といえます。前作では腕力・体格にものをいわせた暴君であるのに対して今作は、権力にものをいわせた暴君小学生が主人公的です。
 前述のように主人公はまたもや暴君的な小学生であり、ヘルビノという蜥蜴人間が共存する世界である。家出をした母親、召使いのヘルビノ、同級生、その同級生の兄、死人を蘇らせる魔術などが絡み合いホラーミステリ的な様相を呈している。途中でなんとなくなにがあったかの仄めかしはあるが、最後の展開を予想することはかなり難しいであろう。前作に続いてグロテスクな描写は秀逸ではあるが、多少のパワーダウン感は否めないことと思う。だがその一方では、話の構成は前作よりもかなり良く全体としては前作よりも良いと思う。
 このシリーズはすこし「マラボウ」という単語が出すぎじゃないかと思う。ヘルビノの召使いが主人公の「マラボウ」を褒め称えるシーンは見ていて「これはひどい」と思った。結末をみたあとでこのシーンを考えるとより一層ひどい。でも「グッチャネ」ばかりいっていた前作に比べるとおとなしくなったような気がしないでもない。