名大SF研記録ブログ

名古屋大学SF・ミステリ・幻想小説研究会

セカンド・ショット(川島誠)

新土曜日担当…なんですが、もう日付が変わってしまいました。一回目からすみません。

セカンド・ショット (角川文庫)

セカンド・ショット (角川文庫)

作者の川島誠は1956年生まれで、主に児童文学を書く。この本は、作者の80年代の作品を中心とした短編集。この中の一編「電話がなっている」を目当てに購入した。この作品は、小学校中学年以上向けの児童文学アンソロジーに収録されながら、そのトンデモない結末によって多くの純真な子供たちにトラウマを植え付けたらしい。

舞台は近未来の日本と思われる国。子供たちは過酷な受験戦争を強いられ、高校進学時の試験によって、その後の人生を決定されてしまう。合格発表の夜、そんな熾烈な競争を勝ち抜いた中学3年生の男子である主人公のもとに、彼女からの電話がかかってくる。自分の合格を誰よりも祝福してくれるはずなのに、とある理由による彼女への負い目から、電話に出ることが出来ない。

確かに、10ページと少しの短い作品ながら、結末は刺激の強いもので、堂々と小学生に勧めていいのかしらん、と思ってしまう。話は、彼女からの電話が鳴り響く中で、主人公が彼女と過ごした幼稚園、小中学生時代を回想する形で展開していく。クラス一の人気者だった彼女が、何をやっても人並の冴えない自分を好いてくれることに、主人公は不釣り合いと思いながらも、至上の喜びを感じていた。しかし早熟な彼女は、次第に彼には理解しがたい素振りを見せ、不安に駆られる。こうした主人公の心の動きが、思春期の少年の危うげな視点から描かれる。ところが、そんな二人の関係が、これからどう進展していくのだろうと期待した矢先に回想は途切れ、超展開を迎えて話は終わる。

この、微妙なすれ違いが、圧倒的な外部の力のせいで、修復されずに宙ぶらりんのまま話が終わってしまうやるせなさと、後味の悪さが、私がこの作品で一番好きな点で、また、この作品をトラウマ本たらしめている一因じゃないかと思う。

ちなみに、この作品の少女のように、性に対する意識がどこかずれている子供は、「悲しみの池、喜びの波」(同書)や、同じ作者の長編『800』などにも登場し、皆不気味な魅力を持っている。

だれかを好きになった日に読む本 (きょうはこの本読みたいな)

だれかを好きになった日に読む本 (きょうはこの本読みたいな)

これが、「電話がなっている」が収録されている小学生向けアンソロジー。同作に引けを取らない作品が多数収録されているらしいので、読んでみたいと思う。(tan)