名大SF研記録ブログ

名古屋大学SF・ミステリ・幻想小説研究会

愛はさだめ、さだめは死(ジェイムズ・ティプトリー・Jr. )

 どうも皆さん初めまして。タロ大SF研1年のh_lessです。私はSF読みでも、ミステリ読みでもない読書素人なので、知識間違ってたりしても多めに見てください。お願いします。


 
 今回レビューするのは『愛はさだめ、さだめは死』。最初にあるロバート・シルヴァーバークの解説が笑える。素性を明かす前はマジで男だと思われていたということが良くわかる解説だった。「ティプトリーは女性ではないかという説も耳にするが、この仮説はばかげていると思う。」なんて解説の中で断定しちゃっている。ティプトリーが女性だと知ったときに、ロバートさんはこの文章を書いたことを猛烈に後悔したと思う。

 
 この本には全12編の短編小説が収録されている。個人的に、『接続された女』までにある作品が読みにくかったように感じた。読みづらさよりも面白さのほうが勝っていたのでちゃんと読み進めることはできたけど…『楽園の乳』『そしてわたしは失われた道をたどり、この場所を見いだした』『アンバージャック』『乙女に映しておぼろげに』は読むのが辛い。特に『乙女に映しておぼろげに』は読み終わるまでに時間がかかった。女の子が未来語(?)をしゃべるので、それを解読するのに一苦労。何が「ドッカーン!」じゃ、ボケ。現代語を話せ、現代語を。私が翻訳小説に慣れていないから読みにくいと感じただけなのかもしれないけれど、もう少しうまく訳してもらえるとありがたい。

 
 『接続された女』とそれより後は、読みやすいし、とても面白い。『接続された女』は自殺に失敗して「グロッキー」な姿になってしまった女の子P・バークが、体に電極をさして、電気信号で美人のサイボーグを操作するというお話。SFに詳しくないので、これをサイバーパンクに含めていいのか分からないけど、こういう発想を70年代に考え付いてたのはすごいなあと思った。あと、芸能人を使ったステマ。バークの仕事は美人のサイボーグに商品を身につけさせ、商品のイメージアップを図るというもの。ステルスマーケティングそのものだ。映画の途中に、ある会社の製品を映して、ステマするというのはよく聞く手法だけど、そういうのを先取りしていて非常に興味深い。色々な点で感心させられる作品だった。

 
 その他お気に入りは『恐竜の鼻は夜ひらく』、表題作『愛はさだめ、さだめは死』。『恐竜の鼻は夜開く』はギャグっぽくて、笑いながら読んだ。『恐竜の鼻は夜ひらく』は偉い科学者達が上院議員とその息子を騙すために、偽者の恐竜の糞を作らなければいけなくなるという話。自分たちで恐竜の食べるものを食べて、ウンコを出して偽装するというのが、滑稽でわらえた。『愛はさだめ、さだめは死』は「ティプトリーのかんがえたよくわからないせいぶつ」が、本能に逆らおうとするのだが、結局は本能のまま行動してしまうという話。優しかった母親が突如豹変したり、メスをめぐって争いがおこったりするのだが、そこらへんのシーンに男と女の関係を考えさせられるような部分があって、そこらへんがティプトリーフェミニズム的といわれる所以なのかなと思った。

 
 前半は読みにくかったが、後半は面白かったというのが全体の感想。もし、序盤で挫折した方がいらっしゃったら、『接続された女』から読み始めるといいと思う。『接続された女』は絶対面白いので (h_less)