名大SF研記録ブログ

名古屋大学SF・ミステリ・幻想小説研究会

SFインターメディアフェスティバル2015

3月7日に名古屋の栄にあるspazio ritaでSFインターメディアフェスティバル2015が開催されたのでそれについてのレポートを書いていこうと思います。
SFコミュニケーション研究会主催で初めて行われた本イベントのテーマは「ロボットの昼とプログレの夜」です。その名の通り、昼の部は「ロボットとSFについて」、夜の部は「プログレッシブロックとSFについて」という二つの違ったテーマに関して深いトークやライブが行われました。


・昼の部1「ロボット製作にまつわるお話」
 昼の部の一発目は「GAZEROID」という柏木由紀似の「ゆきりんロボット」を製作したことで有名な藤堂高行さんによる開発秘話。そのゆきりんロボットも会場に来ていました。
 「GAZEROID」は目を合わせると首をかしげながらも視線を合わせてくることが特徴の人型ロボットです。その従来のロボットにはない視線追尾の特徴は、理想の彼女をつくりたいと考えた藤堂さんの「恋をすること=見つめ合うこと」という哲学から生まれた、との話はたいへん面白かったです。他にも今後は「まぶたの追従」や体全体の動きをつけて人間に近づけていきたい、という話やAKBの公式イベントでご本人との共演を果たした時の事など、非常に興味深いお話をしていただきました。
 また会場に展示された「ゆきりんロボット」と実際に目を合わせる体験ができました。私も目を合わせてみたのですが、見つめられると驚きとともに温かさを感じました。

・昼の部2「ロボット映画にみるアイデンティティ
 昼の部二発目のパネラーはSFコミュニケーション研究会代表の川本真弓さん。映画「クレヨンしんちゃん ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん」から「不気味の谷現象」について考えるお話をしてくださいました。「不気味の谷」とはロボットが人間に近づく上である一定のラインを超えると突如として不気味になる現象の事で、ロボットに関して切り離すことのできない問題の1つでもあります。この映画ではしんのすけの父親であるひろしがロボットになるのですが、それに対するしんのすけの反応と妻のみさえの反応の違いから、「不気味の谷」は人によって、時間経過によって反応の差があり、それがこの現象を定義化することが出来ない原因の一つという事でした。

・昼の部3「ボーカロイドについて」
 パネラーは椙山女学園大学教授であり米文学、SF研究家でもある長澤唯史さん。ボーカロイド初音ミクについての歴史や背景、今後の展開等についてのお話をしていただきました。
 今後ボーカロイドは人間の声に近づけるのか、人間には出せない声をだしていくのかという2つの方向性にかんする話や、ボーカロイドは作品の質の競争、自己表現の舞台ではなくあるコミュニティ上に立つゲームなのではないか、幅広くコピーされることを前提とした共有財産的作品群なのではないかという話、またボーカロイド初音ミクは別のものではないのかという考えから、この二つは背景となる文化が違っており、それぞれの立場、コミュニティによる対話が必要ではないのかという考えなど大変ためになる講演でした。
 個人的にはジュール・ヴェルヌの「カルパチアの城」という小説が初音ミクのひいてはアイドルオタクの元型であるのかもしれないという説が好きでした。

・昼の部4「出演者による対談と客席との交流」
 昼の部に出演していただいた三人のパネラーによるそれぞれの分野を超えた対談でした。ロボットを人間に近づけるということはロボットに個性を与えることであり、それに対しての「ゆきりんロボット」と「ボーカロイド」の違いというのが印象深かったです。

・夜の部1「宮崎尚アコースティックライブ」
 ロボットから打って変わってプログレッシブロックをテーマとした夜の部の一発目は日本を代表するレッド・ツェッペリンコピーバンド「Cinnamon」の初代ヴォーカルである宮崎尚さんと中村克宏さんのギター及びマンドリンによるツェッペリンの曲のライブでした。プログレッシブロックというのは70年代を中心に盛んだったロックの分野で、レッド・ツェッペリンというのは世界的に有名なロックバンドの事で一部の曲がプログレとされます。
 いやー、宮崎さんの声は素晴らしかったです。レコードを用いた宮崎さんの軽快なトークや中村さんの語るような弾きも楽しめました。私はツェッペリンのベストアルバムぐらいしか聴いてはいないのですが、名曲「天国への階段」のときは感動しましたね。

・夜の部2「プログレとSFを巡るあれこれ」
 ・夜の部二発目は本会OB、名古屋大学SF研究会創設者であり現役高校教師の渡辺英樹さんと大阪大学教授でありSFファンでもありニセ科学ハンターでもありテルミン奏者でもある菊池誠さんによるプログレ談義。
 ツェッペリンキング・クリムゾン、イエスピンク・フロイドジェネシス、ザッパ、ELPなどのバンドについてや、プログレと言えばジャケット絵というところから多くのバンドのジャケットを担当したヒュプノシスについて、先進的な楽器や独創的なライブ、ミュージックビデオの話、曲としての素晴らしさ、高円寺百景上原ひろみなどの今の日本人のミュージシャンの話など非常に密度が濃く深いトークが繰り広げられ、大変ためになる時間でした。
 またプログレの日常の中に侵入してくる異物や誇大妄想的な作風、様々な要素を脈絡もなく付加させ巨大化させる、理性とパトスのせめぎ合いという点がSFとの共通点であるという事でした。

・夜の部3Andmo`ライブ
本イベントの締めを飾るのはテルミン奏者である児島佐織さんと菊池さんによるロック・バンドAndmo`のライブでした。テルミンというのは20世紀初めにロシア人が発明した電子楽器のことで、音色も演奏法も特殊です。
 児島さんによるテルミンのにょわんにょわんした神秘的な音と菊池さんのギターが混じ合わさり、直接脳に響いてくるライブでした。最後は宮崎さんを加え、ツェッペリンを演奏するという嬉しい展開で終わりました。


 SFインターメディアフェスティバル2015は昼はロボットとSF、夜はプログレとSF、とジャンルを超えたイベントで、話を聞くだけではなく、最先端技術に触れたり、音楽を聴いたりと色々体験をすることが出来るイベントでした。来年以降もぜひ続けていただきたいです。またその際には我々名大SF研も積極的に力になれたら嬉しいなと思います。

(詠) キング・クリムゾンの「Red」を聞きながら