名大SF研記録ブログ

名古屋大学SF・ミステリ・幻想小説研究会

われらが背きし者 (ジョン・ル・カレ)

カリブ海の朝7時、試合が始まった――。一度きりの豪奢なバカンスが、ロシアン・マフィアを巻き込んだ疑惑と欲望の渦巻く取引の場に! 恋人は何を知っているのか、このゲームに身を投げ出す価値はどこにあるのか? 政治と金、愛と信頼を賭けた壮大なフェア・プレイをサスペンス小説の巨匠ル・カレが描く、極上のエンターテインメント。

 『プリンセス・プリンシパル』というアニメをご存知だろうか。2017年に放送されたTVアニメで、19世紀末のロンドンを舞台に繰り広げられるスチームパンク&スパイものであるが、主人公の女の子の名前が「アンジェ・ル・カレ」なのだ。もちろん、今回レビューする小説の作者でもあるスパイ小説の大家、ジョン・ル・カレから取られた名前である。『プリプリ』に激ハマりしていた時期に、『誰よりも狙われた男』を読んだこともある。なのでル・カレの小説を読むのはこれが二回目だ。

 序盤は時系列や登場人物の関係性を理解するのに手間取ったが、中盤以降は話がどんどん進んでいく。スパイものではあるが、アクションシーンや敵との知恵比べといったシーンはほぼ無い。どちらかというと人間関係を描くことに重きが置かれている感じはする。キャラはとても魅力的。ちなみに僕は誰かが裏切ると思って読んでたんですが、誰も裏切りませんでした。(肇)

余談:先日京都の丸善に寄ったのですが、よく行く栄の丸善とはまた違った雰囲気の店で非常にワクワクしました。京都にゆかりのある作家たち(森見登美彦とか)の本がやたら推されていたり、漫画が充実していたり。気になった本も何冊か見かけたので、来年以降読んでみようと思います。卒論?

戦艦武蔵 (吉村昭)

日本帝国海軍の夢と野望を賭けた不沈の戦艦「武蔵」――厖大な人命と物資をただ浪費するために、人間が狂気的なエネルギーを注いだ戦争の本質とは何か? 非論理的“愚行"に驀進した“人間"の内部にひそむ奇怪さとはどういうものか? 本書は戦争の神話的象徴である「武蔵」の極秘の建造から壮絶な終焉までを克明に綴り、壮大な劇の全貌を明らかにした記録文学の大作である。

 一時期『艦これ』にハマっていたことがある。結局3か月ほどで飽きてしまったが、キャラの名前とビジュアルはそこそこ覚えた。だが、「武蔵」はゲットすることができなかったので、顔を全く思い出せなかった。そんなことはどうでもいい。

 文庫版解説にも書かれている通り、この本では過度に人々の心情を描き出したりはしていない。淡々と、出来事が述べられるだけである。前半は武蔵がいかに建造されたかで(この時はまだ「第二号艦」と呼ばれていた)、後半は太平洋戦争が勃発し、武蔵が沈没するまでである。
 沢木耕太郎は「事実と虚構の逆説」(『作家との遭遇』収録)という文章のなかで、吉村昭は徹底したノンフィクションを書くことで逆説的にフィクションを作り上げることができたと評しているが、まさに『戦艦武蔵』は壮大で残酷なフィクションであると言える。途方もない数の人の想いを背負った巨大戦艦は、存在自体が一般には秘匿されており、また莫大な燃料を消費することから、戦況が悪くなるまで前線で戦うことは無かった。そして段々と日本軍は追い詰められ、ようやく大和や武蔵を戦線に投入していくが、時すでに遅しだった。勿論、読者は武蔵が沈没することを知っている上で読み進めていくが、武蔵がアメリカ軍からの猛攻を受け沈んでいくシーンでは、強烈なやるせなさを感じることになる。
 ルポルタージュの金字塔的作品。(肇)

ゴリラ裁判の日 (須藤古都離)

カメルーンで生まれたニシローランドゴリラ、名前はローズ。メス、というよりも女性といった方がいいだろう。ローズは人間に匹敵する知能を持ち、言葉を理解し「会話」もできる。彼女は運命に導かれ、アメリカの動物園で暮らすようになる。そこで出会ったゴリラと愛を育み、夫婦の関係となった。だが ―― 。その夫ゴリラが、人間の子どもを助けるためにという理由で、銃で殺されてしまう。どうしても許せない。 ローズは、夫のために、自分のために、人間に対して、裁判で闘いを挑む! 正義とは何か? 人間とは何か? アメリカで激しい議論をまきお こした「ハランベ事件」をモチーフとして生み出された感動巨編。

 レビューを書こうと調べていると、この本は「ハランベ事件」をモチーフとしていることが分かった。2016年に、アメリカのある動物園で、ゴリラのハランベがいる柵の中に3歳の男の子が入り込んでしまい、男の子を助けるためにハランベが射殺された。この判断の是非がアメリカ中で議論を巻き起こしたという。
 それを踏まえて読むと、『ゴリラ裁判の日』はハランベ事件から設定をまるまる借りていることが分かる。この事件に、昔話題になった手話を話すことのできるゴリラ要素を付け加えたのが本作と言ってもよいだろう。
 設定は現実からそのまま借りたものが多いが、話はそこそこ面白い。夫を動物園に殺されたローズは、金の亡者だが才能のある弁護士・ダニエルとともに、一度は敗れた裁判に再び立ち向かう、という王道のストーリー。ダニエルが終始隙を見せなかったためハラハラドキドキ感はあまり無かったけれど。あとはラストシーンでの回想がやや駆け足だが、まぁ許容範囲。
 ちなみに、同作者の第二作『無限の月』のレビューがもうすぐ発行されるBIT(当サークルが発行してるチラシみたいなやつです)に掲載される予定なのでそちらもよければどうぞ。(肇)

ユートロニカのこちら側 (小川哲)

巨大情報企業による実験都市アガスティアリゾート。その街では個人情報――視覚や聴覚、位置情報等全て――を提供して得られる報酬で、平均以上の豊かな生活が保証される。しかし、誰もが羨む彼岸の理想郷から零れ落ちる人々もいた……。苦しみの此岸をさまよい、自由を求める男女が交錯する6つの物語。第3回ハヤカワSFコンテスト〈大賞〉受賞作、約束された未来の超克を謳うポスト・ディストピア文学。

 先週末の文フリ東京に参加する予定だったんですけど、申し込みしようと思ったらすでに期間外でした。
 来年1月の文フリ京都には参加します。


 『ゲームの王国』『嘘と正典』に続き、小川哲の作品を読むのはこれで3作目。一番気になってる『君のクイズ』も直木賞を取った『地図と拳』もまだ読むことができていないが、まぁいつか読むタイミングが来るでしょう。
 本作の舞台はアガスティア・リゾートという、企業が運営する都市である。住民は都市内でのすべての情報を企業に提供する代わりに、働かなくても十分な金額を手に入れることができる。「企業の陰謀」とかは(どちらかといえば)メインテーマではなく、ユートピアであるはずの都市をめぐる人々を描いた作品である。都市に住み始めてから元気がなくなった男、都市で犯罪を未然に防ごうとする博士、都市にテロを仕掛けようとする男女……。彼らは都市とどう向き合って暮らしていくのか。
 作中にライルという人物が登場する。リゾートで犯罪予防に努めている男だが、サーヴァント(情報管理AI)の指示を疑いもなく受け入れており、まさに都市を代表するような人物である。現代でも、AIが閲覧履歴からおすすめの広告や動画を表示したりするなど、既にAIによって私たちが見たり聞いたりするものが支配されている。今後AIが発達して、私たちの生活と思考はどのように変わっていくのだろうか(なんかそれっぽいこと書いてみようと思ったけどうまく書けないね)。(肇)

超新星紀元 (劉慈欣)

1999年末、超新星爆発によって発生した放射線バーストが地球に降り注ぎ、人類に壊滅的な被害をもたらす。一年後に十三歳以上の大人すべてが死にいたることが判明したのだ。“超新星紀元”の地球は子どもたちに託された……! 『三体』劉慈欣の長篇デビュー作

 先日、金沢へ行く機会があったのだが、時間があったので金沢市立玉川図書館に立ち寄った。『走る赤』や『蒸気駆動の男』など、名古屋市の図書館に置いていない作品が多数あり、羨ましかった。今回レビューする『超新星紀元』も本棚に置いてあるのを見て(こちらは名古屋にもあるが)、読もうと思ったが帰りの電車に間に合わなくなりそうなのでやめた。

 今年7月に刊行した劉慈欣の『超新星紀元』。そろそろ中国SFの翻訳ラッシュも収まってきた頃だが、個人的にはまだ続いてほしいな……。郝景芳の長編とか読みたい。
 前半は子供だけになった世界で彼らがどう困難に立ち向かっていくかの話。1年の猶予があれば大抵のことは大人から子供に引き継げる……のか?主人公である華華、メガネ、暁夢らは国の指導者として、量子コンピュータのビッグ・クォンタムの助けを借りて、治政を進めていく。子供が「遊び」を基本原理として行動しているという話はなるほどと感心させられた。
 後半は各国の子供首脳たちが駆け引き(戦争)する話。温暖化で暖かくなった南極で繰り広げられる「戦争ゲーム」パートが長すぎる。遊びの内容と結果を事細かに書かなくてもいいのではと思った。最後のゲーム(中国とアメリカの入れ替え)は非常に面白そう。子供世界だからこそできるゲームで、結末は直接的には描かれていないがおそらく成功したのだろう。ちなみに後半部分にビッグ・クォンタムは出てきません。世界中の子供たちが殺しあっている中、何してたんでしょう。(肇)

近況

こんにちは、肇です。近況報告です。
・先日、「当世大学生SFファン会議」に参加しました。各サークルとの交流ができて非常に面白かったです。当サークルは基本週に1回例会&短編読書会をおこなっているのですが、比較的活発に例会を開催しているほうなのだと知り、驚きました。
・先週の水曜日に長編読書会『虐殺器官』、昨日(水曜日)に長編読書会『幼年期の終わり』を開催しました。どちらも多くの部員による活発な議論が交わされました。来週から引き続き短編読書会『AIとSF』をやります。
・今週の土曜日におこなわれる「第45回 秋革祭」に当サークルが出展します。名古屋大学東山キャンパス全学教育棟A館のA14教室で、10:00-16:00です。名大祭などと同様に、部誌の販売をします(新刊はありません)。時間のある方は是非お越しください。

 ここからは僕個人の話です。
・先週まで忙しく、なかなかブログを更新できませんでした。今週から比較的時間が空くので、まめに更新できればと思います。
・最近読んだSF小説柴田勝家『クロニスタ 戦争人類学者』と、アンディ・ウィアー『アルテミス』です。また、SF以外の本も多く読みました。沢木耕太郎『檀』、アンソニーホロヴィッツカササギ殺人事件』、田辺聖子ジョゼと虎と魚たち』、宇佐見りん『推し、燃ゆ』など。あとBLEACHを死神代行消失篇まで読みました。

それでは。

映画 『ガールズアンドパンツァー最終章 第4話』


冬季無限軌道杯準決勝。大洗女子学園戦車道チームは要の「あんこうチーム」を序盤で失うという、かつてないピンチに見舞われ、残されたメンバーたちに対戦相手の継続学園が不敵に迫ってくる。一方、黒森峰女学園と聖グロリアーナ女学院の対戦も、息づまる激戦になっていた。自分なりの戦車道を見つけた黒森峰の隊長・逸見エリカを、難敵である聖グロリアーナ女学院の隊長ダージリンが迎え撃つが……。

 ガールズアンドパンツァー最終章の第4話の上映が今日から始まった。最終章が始まってから6年、TVシリーズの放送から数えると11年も経った。僕はミリオタではないので戦車のことはよく分からないけれど、話も面白いしキャラもかわいいしという理由で追い続けている。というわけで研究室を抜け出して早速観に行った。以下ネタバレ注意。



 観終わっての第一の感想。危なくない?今更
 戦車で塹壕掘ってるときにひょっこり顔を出す会長、地下通路の侵入時の角度、マリオカートのコースのような雪山での斜面転がり、挙句の果てには雪崩。戦車がメインの作品で何言ってんだと思われるかもしれないが、「怪我しないでね」とヒヤヒヤしつつ観ていた。決着のつき方は結構あっさりめ。
 主人公チームである大洗女子が継続に勝った後、最近流行り?のサウナ要素を挟み(まぁ継続のモデルがフィンランドだから普通の流れだけど)、もう一つの準決勝、黒森峰VS聖グロが始まる。僕は各校の隊長で一番好きなキャラがダージリンだけれども、正直黒森峰が勝つと思ってた(テニプリの関東大会→全国大会でどちらも決勝の相手が立海だったように)。なので聖グロの決勝進出は嬉しかったし、一番のサプライズは愛里寿が聖グロに入学したこと。これで、大洗女子が唯一勝っていなかった聖グロ&劇場版で戦った大学選抜チームの本隊長・愛里寿との再戦が決勝の目玉となった。よかったよかった。特典の色紙はエリカ&ダージリンでした。よかったよかった。

 残り2話かぁ、なんか物悲しくなるね。どうせなら The Final Season完結編(後編)までやりましょうよ!(肇)


 おまけ 大洗に昔行った時の写真
 
 会長。
 
 オレンジペコ
 
 肴屋本店に泊まった時に見つけたダー様。