名大SF研記録ブログ

名古屋大学SF・ミステリ・幻想小説研究会

ゴリラ裁判の日 (須藤古都離)

カメルーンで生まれたニシローランドゴリラ、名前はローズ。メス、というよりも女性といった方がいいだろう。ローズは人間に匹敵する知能を持ち、言葉を理解し「会話」もできる。彼女は運命に導かれ、アメリカの動物園で暮らすようになる。そこで出会ったゴリラと愛を育み、夫婦の関係となった。だが ―― 。その夫ゴリラが、人間の子どもを助けるためにという理由で、銃で殺されてしまう。どうしても許せない。 ローズは、夫のために、自分のために、人間に対して、裁判で闘いを挑む! 正義とは何か? 人間とは何か? アメリカで激しい議論をまきお こした「ハランベ事件」をモチーフとして生み出された感動巨編。

 レビューを書こうと調べていると、この本は「ハランベ事件」をモチーフとしていることが分かった。2016年に、アメリカのある動物園で、ゴリラのハランベがいる柵の中に3歳の男の子が入り込んでしまい、男の子を助けるためにハランベが射殺された。この判断の是非がアメリカ中で議論を巻き起こしたという。
 それを踏まえて読むと、『ゴリラ裁判の日』はハランベ事件から設定をまるまる借りていることが分かる。この事件に、昔話題になった手話を話すことのできるゴリラ要素を付け加えたのが本作と言ってもよいだろう。
 設定は現実からそのまま借りたものが多いが、話はそこそこ面白い。夫を動物園に殺されたローズは、金の亡者だが才能のある弁護士・ダニエルとともに、一度は敗れた裁判に再び立ち向かう、という王道のストーリー。ダニエルが終始隙を見せなかったためハラハラドキドキ感はあまり無かったけれど。あとはラストシーンでの回想がやや駆け足だが、まぁ許容範囲。
 ちなみに、同作者の第二作『無限の月』のレビューがもうすぐ発行されるBIT(当サークルが発行してるチラシみたいなやつです)に掲載される予定なのでそちらもよければどうぞ。(肇)